第816回
メシの食い上げになる心配はありません
物づくりが日本の主要産業でなくなってしまって、
日本人が外国から安い工業製品を
買うようになったとしたら、
日本人は何をやって暮らして行くのでしょうか。
もしかして、お金が稼げなくなった上に、
折角、貯めたお金まで使い果たして、
外国から工業製品や食糧を買うことも
できなくなってしまうのではないでしょうか。
心配性の人ならそう思いたくなってしまう方向に
世の中は動いています。
時代が変わると、
かつて全世界にその名を轟かせていた勇猛果敢な国民でも
その栄光を失ってしまうものなのです。
私は西洋史でヨーロッパの興亡を学び、
かつてコロンブスのアメリカ大陸新発見の
スポンサーになったのもスペインなら、
インビンスブルグ・アルマーダで
ヨーロッパ中に睨みをきかせたのも
スペインだったことを知っているので、
はじめてスペインに行った時、
かつての栄光はどうなっているのだろうかという目で
行き交うスペイン人の顔を
1人1人覗き込んだことがあります。
見られている方はまさかそんな目で見られているとは
思ってもいなかったでしょう。
夜の遅いマドリッドで朝早く目をさまして、
ホテルの窓から下を通る人の流れを
ジッと眺めていましたら、
過去の栄光とは何の関係もない普通のサラリーマンが
勤め先に急いでいる光景でした。
恐らく日本から世界一稼ぎのよい国
というイメージがなくなってしまったとしても、
朝の電車の混み方に何の変化もないでしょう。
サラリーマンの意識にも、
収入にもそんなに大きな変化はない筈です。
一旦レベルの上がった生活水準は
そんなに急激に落ち込むものでもないし、
また労働力の生産性も低下するものではないからです。
サービス業や流通業中心の社会になったら、
メシのタネがなくなってしまうと
心配する人もあるかも知れませんが、
その心配はないと考えてよいでしょう。
スペインの王朝が変わっても、
スペイン人がちゃんとメシを食っているのを見ても
わかる通りです。
スペイン人のすべてが航海でメシを食っているわけでも、
また闘牛でメシを食っているわけでもありません。
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