第273回
選り好みのできる求職者の天国です

昔と今の若者の気質の違うところはたくさんありますが、
就職についての考え方はかなり変わりましたね。
ほんの少し前までは一流大学を卒業して
一流企業に就職することが
エリート・コースと考えられていましたが、
一流企業が次々と倒産か、
倒産寸前まで追い込まれて社員が解雇されたり、
リストラの対象にされたりするようになると、
一流企業なら安泰だという先入観は
ただの錯覚に変わってしまいました。

その上、出世コースを登りつめた社長や重役たちが
経営の責任を問われて牢獄につながれたり、
辞任を強いられたりするようになると、
エリート・コースへの信仰は
一ぺんに吹っとんでしまいました。
とりわけ会社の出した損失に対して役員たちが
株主訴訟の的にされて、賠償責任を問われるようになると、
「もう取締役なんかにはなりたくない。
 部長どまりで結構だ」
という声もきかれるようになりました。
大和銀行のように千億円を越える損失の辨(ベン)償を
当時の役員たちがやれという判決が出ると、
一生かかっても辨(ベン)償できない金額ですから、
破産宣言でもしなければならなくなります。
エリート・コースは一挙に暗転してしまいました。

ここまで追い込まなくても、
エリート・コースは既にかなりガタが来ています。
バブルの崩壊と成熟社会への移行によって
業績の悪化したオールド・エコノミーの中には
かつての従業員を養い切れなくなって、
終身雇用も年功序列給も
大きな修正を強いられている企業が続出しています。
中堅社員がこのまま定年まで勤務できたとしても
先は知れているのですから、
これから新しく就職するフレッシュマンが
魅力を感じなくなったとしても不思議ではないでしょう。

まして就職なんかしなくとも、
フリーターをやっただけで
メシの食える世の中になったのですから、
一旦、一流企業に就職した者でさえ
平気で退職をするようになりました。
昔は考えられなかったことが起っているのです。
不景気だと言われていますが、
贅沢な世の中になったと思いませんか。


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