第204回
社長になるくらいわけはない
大きな会社で社長をしている人の前歴を見ると、
かつて社長秘書をつとめた人がたくさんいます。
むろん、現場上がりの人もあれば
技術畑上がりという人もおりますが、
そんな人はそうたくさんはおりません。
どうして秘書上がりの社長が多いかというと、
社長のそばにいて社長にその人格や能力を
認めてもらうチャンスが多いからですが、
社長の一挙一動に接して知らず知らずのうちに
社長術を身につけてしまうからでもあります。
気のきく仕草のことを中国語では
「剣及履及」と言いますが、
主君が剣が欲しいと思ったら、目の前に剣がさし出され、
履物が欲しいと思ったら、もうきちんと履物が
揃えてあるという意味です。
それほど機転のきく秘書であれば、
当然、社長に気に入られることは間違いありませんが、
そのためには社長の心の中が
うまく読めなければなりません。
社長がいま何を考えているかわかれば、
社長が次に何をしようとしているかわかります。
すると、先廻りして社長の露払いができるわけですから、
社長と同じ判断も行動もできるようになります。
従って社長業がつとまってしまいます。
つまり名秘書がつとまれば、
少なくともその人が仕えた社長くらいのことは
つとまるということです。
或る時、日本で有名な会社の社長さんと一緒に
海外旅行に出かけたことがあります。
ちょうどその頃、私の書いた「社長学入門」という本が
出版されたので、本の扉のところに
「秘書が完璧につとまれば、社長になるくらいわけはない」
とサインして一冊進呈しました。
その人は私のサインを覗き込んで、
「うまいことおっしゃる。全くその通りですね」
と何回も頷いてくれました。
もちろん、秘書は社長のやることを
そばにいてコピーするようなものですから、
すぐれた社長につくにこしたことはありません。
何千人も社員のいる会社で
秘書に選ばれるだけでも大へんですが、
そういうチャンスに恵まれた人は
出世の高速道路に上がったようなものですね。
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