第89回
日本語の通じない所に行きなさい

日本人が日本語以外の言葉を喋らないですんでいるのは、
日本人のしあわせでもあります。
日本国内で複数の異民族を抱えておらず、
民族問題というトラブルに
巻き込まれないですんでいる証拠です。

しかし、そのために日本人は
外国語を覚えるチャンスが少なく、
外国語を学んでもなかなか上達しません。
漢字が輸入された時も、
日本人はそれを外来文化として受け入れ、
外国の教養や学問を受け入れる手段として使いました。
蘭学事始のような
オランダ語による医学書の解説も、
外国語を喋るためではなくて、
外国の学問を理解するためです。

こうした外国語の受け入れ方は明治以降も
ずっと一貫しており、
外国文化を受け入れる手段として
外国語に馴染んできたので、
外国語の難しい単語が理解できても、
耳から入り、口から出る外国語は
なかなか上手にならないのです。
この伝統は外国人と接するチャンスが
これだけふえてもまだなかなか改まらず、
外国でパーティーに招かれても、
日本人同志で一塊りになってしまいます。
外国語が苦手だから
日本人同志で一緒になりたがるのか、
それとも外国人と一緒になることが少ないから、
いつまでも外国語が上達しないのか、
恐らくどちらも真実に近いでしょう。

でもそうは言っておられない時代になってしまいました。
日本人が外国に行かなくとも
外国人が日本にやってきます。
日本人にしても外国人に物を売らなければ
やっていけなくなったし、
外国に行って物をつくらなければ
国際競争に勝って行けなくなってしまったのです。
テレビのチャンネルを切り変えても
CNNをはじめ、外国語の放送がすぐに出てくるし、
コンピュータやバイオロジイの知識を得ようと思えば、
日本語以外の言葉の一つや二つ
マスターしないわけには行きません。
そのためには外国に留学するのが
一番手っ取り早い方法ですが、
その次は外国に行って日本語の通じないところで
暮らすことでしょう。
必要に迫られたら外国語はすぐに上達するものです。





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