第88回
日本語だけで間に合う日本人
日本語の片言を喋るようになることは
そんなに難しいことではありません。
「おはよう」とか「こんにちわ」とか、
「さよなら」ならすぐ覚えられます。
そういう挨拶言葉の次に
日本人観光客のガイドをつとめる
ヨーロッパの人たちが覚える日本語は何と
「ドッコイショ」だそうです。
あちこち観光地を歩きまわって、
バスに乗りこむ時に大抵の日本人が
「ドッコイショ」と必ず言うそうです。
これにはさすがの私も笑い出してしまいました。
日本語の知らない外国人に、
覚えて一番役に立つ日本語は何ですかと
きかれたことがあります。
さんざん考えた末に私は、
「どうも」という言葉を教えました。
はじめて会った時でも、次に会った時でも、
「どうもどうも」とくりかえせばすみます。
人の足を踏んだ時も、
「どうもどうも」と頭を下げればよいし、
人にご馳走になったり、別れる時も
「どうもどうも」で何とかごまかせます。
「どうも」と連発すれば、
大抵のことは許してもらえるのです。
しかし、文法に絶対に間違いがないように、
日本人と同じように喋れと言われて、
それができる外人さんはほとんどいません。
日本に育った外国人なら別ですが、
オトナになってから覚えた
日本語を完璧に喋れることは、
皆無に等しいと言ってもよいでしょう。
それほど難しい日本語が完璧に喋れる日本人なら
外国語をマスターすることくらい
何でもないと思うかも知れませんが、
それがその逆なのだから
世の中は本当に面白いものです。
いまでこそ第1外国語は英語、
第2外国語はスペイン語か、中国語といった
語学の勉強が当り前になったし、
なかには子供の時からアメリカンスクールに通う
日本人もあるようになりましたが、
ほとんどの日本人は日本語しかできません。
どうして日本語しかできないかというと、
日本語以外の言葉を話す必要のない環境に
育っているからです。
単一民族であることの長所も弱点も
そこに出てくるのです。
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