第86回
椅子とコシカケはどう違う

日本語はオトナになってから学ぶ言葉としては
かなり難しい方に属します。
中国語のような四声、(広東語の場合は八声)といった
音ていはありませんが、
同じ1つの物を表現するのに
いくつもの言葉があるからです。
「その椅子に坐って下さい」
と外人さんに言ったら、
「椅子って何ですか」
ときかれたことがあります。
「チェアのことですよ」
と説明したら、
「あれはコシカケじゃありませんか。
私はコシカケと習いました」
と言われて返答に窮したことがあります。
椅子とコシカケとどこが違うのかときかれたからです。

椅子とコシカケは同じものです。
あえて違いをあげれば、
椅子が唐の国から輸入された外来語で、
コシカケは日本に昔からある
ヤマト言葉だということでしょう。
日本は文化の一大輸入国で、良いと思ったものは
何でも取捨選択なしに輸入してきた歴史があります。
徳川の鎖国以前は中国大陸が
文化の主な輸入先でしたから、
漢字をはじめ、唐傘から唐辛子まで
何でも中国から輸入してきました。

今日、日本を代表する茶道は唐から宋にかけて
中国大陸で流行したお茶のいれ方であり、
いまのコーヒー・ハウスと
似たようなものだと思えばいいでしょう。
キモノにしても、
もとは呉の国の人が着ていたものであり、
日本でもつい戦前まで呉服と呼ばれていました。
呉の国で着る人がいなくなって、
日本にだけ残ったので、
日本を代表する衣裳になってしまったのです。

明治以後になると、
文化の輸入先は中国からヨーロッパに切り換えられ、
終戦後は専らアメリカ文化の洗礼を
受けるようになりました。
おかげで漢字まじりの日本語のなかに
更にカタカナの外来語が加わることになったのです。
いまはチェアという英語を知らない日本人はいませんが、
椅子で間に合っていますから、
チェアという人はありません。
でもハンバーガーを肉ダンゴと言わないのは、
いままで日本になかったものだからです。
日本人は新しい輸入文化を外来語で表現することに
昔からなれているのです。





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