コピーするなら徹底的に

もともと中小企業には優秀な人材は集まりにくい。まして仕事に失敗して再度振り出しから出発する人に、良きパートナーはまず期待できない。独創性にも恵まれていない、平凡な人間に新しい仕事を見つけるチャンスがはたしてあるだろうか。考えただけでも弱気が先に立ち、一歩も先へ進めなくなってしまう。私はそういう人にも、うまくやれば再起の道はひらかれていると思う。どうすればよいかというと、お手本になる人を探すことである。自分の師と仰ぐ人、指標になる人を見つけて、その人の言動をよく研究し、その人の真似を徹底的にすることである。
たとえば五島慶太という人は、ゴートー慶太と綽名されるくらい強引な人であったが、どう見ても独創的な人とはいえない。しかしこの人は小林一三を師と仰ぎ、小林一三の事業を指標として、下敷の上から習字をやるように徹底的になぞった。阪急電鉄の真似をしたのが東急電鉄であり、阪急不動産の真似をしたのが東急不動産である。阪急百貨店に対する東急百貨店、東宝に対する東映、第一ホテルに対する東急ホテル、と一から十まで全部真似である。
人の真似をしても東急くらいのスケールになれるのだから、真似るなら徹底的に、咳払いの仕方からおナラのひり方まで寸分違わずにやることである。
しかし、中小企業のオヤジやサラリーマンが小林一三の真似をしても、うまく行くとは限らない。スケールが違いすぎても駄目だし、時代が違ってもうまく行かない。たとえばダイエーの社長だって、三十年前はビタミン剤の大瓶を買ってきてバラ売りからはじめた薬屋さんだから、中内功さんの三十年前をなぞったらよいではないか、と思うかもしれない。しかし、成長経済の波にのって事業の拡大ができた時代と、低成長下で物のありあまる時代では商売のやり方はまるで違う。だから、もし真似をするとすれば、いま現にうまく行っている事業で、スケールもあまり違わないものだとか、また会杜の先輩で、この人のやることなら信頼できるという人の真似でなければ意味がない。実現可能な指標でなければ、指標とはいえないのである。

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