「潮の流れ」と新しい商売
では新規に商売を選ぶとして、どんなことに注意したらよいであろうか。
まず第一に考えられることは、自分の能力の限界をよくわきまえることであろう。能力の中には才能とか気力のほかに当然、資力も含まれる。自分の気質に合わない仕事を選んでも仕方がない。一〇〇〇万円しか持っていない人が、一〇〇〇万円以内でできる仕事と線を引けば、可能性のある仕事は自ずから限定されてくる。
第二に、アンテナをできるだけ高くあげて、判断の資料になる情報を集めることである。人間はそれぞれにスケールがあって、自分の家と勤め先の会社と赤提灯くらいしか行動半径のない人もおれば、多くの友人を持っていて商売情報も多方面にわたっている人もある。それはそのままその人間のスケールの大きさにも通ずるものであり、いうまでもなく情報の豊富な人ほどチャンスに恵まれる。したがって、「世間を狭めた」からといって、門をとざして蟄居してしまったのではおしまいで、気後れするような相手のところでも進んでご機嫌伺いに行ったり、援助をたのみに行ったりする必要がある。また新聞や雑誌に出てくる情報にも絶えず目をとおしておく必要がある。どういう人がどういうことを考えているか、どんな商品が売れているか、どういう会社が更生会社になったかということはいずれも世の中の移り変わりの一端を覗かせるものであり、次の仕事選びの大切な資料になるものである。
パーティなどで久しぶりに会う友人と話をしてみると、よく世事にうとくなり、こちらの消息も全然、知らない人にぶっつかることがある。「これじゃ隠居仕事くらいしかできないだろうなあ」というのが正直な感想であり、テキパキしている人の仕事ぶりと情報量はほぼ正比例しているから、仕事をやろうという人は世事に通じていなければならない。
第三に、情報の中から「潮の流れ」とでもいうか、時の動きを感じとることである。情報だけならば、テレビを見ても新聞雑誌を見ても、溢れるほどの情報が満載されている。問題はそれらの情報をどう受けとり、どう料理するかということである。
たとえば、かつてレーガン大統領が高金利政策をとってインフレ退治に乗り出したら、世界中の資金が高金利にありつこうとしてアメリカに移動し、おかげでマルク安、円安になった。
この動きを見て、「強いアメリカ」が実現し、「レーガノミックスは必ず成功する」とレーガン賛歌をうたっている人がある。しかし、同じ情報を私が見ると、世界中から集まったドルは高い金利が目的で、アメリカの産業投資に使われていないから、アメリカの産業界は疲弊の一途を辿る。また、ただでさえ日本の鉄鋼メーカーや自動車メーカーや電気製品メーカーとアメリカの間に企業差が出てきているのに、そのうえ、円安の洗礼を受けたら、アメリカの主要産業分野を日本に食い荒される結果になる。したがって、おそらく一年か二年のうちに、アメリカは悲鳴をあげるようになるだろうというのが私の見方である。
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