役に立つ経験立たない経験
私自身、失敗は数限りなくやっているが、金銭的に他人に尻ぬぐいをしてもらうほどの失敗はやっていない。だから、本当に失敗をして他人に迷惑をかけた人の心境は、想像でしかわからない。しかし私は、無一文になった人は無一文という点では大学の新卒と同じでも、経験を積んだ分だけは財産を持っているのではないかと思う。
もっとも経験にもいろいろあって、役に立つ経験もあるが、役に立たない経験もある。役に立たないだけでなく、有害な経験もある。何十年も経験を積みながら会社を潰したとなると、今までの経験はすべて役に立たなかったことになるし、そういう経験に反省がなくて、そのまま専門知識として再起に使ったらもういっぺん同じ失敗をくり返すことになる。倒産した人の専門知識は、そのままでは使いものにならないのである。
あるとき、私は台湾で漬物の工場をつくろうと試みたことがあった。梅もらっきょうも生姜も台湾産が多く日本に売られるようになったが、粗漬けのまま送り出されるものが多く、これを完成品までやって袋詰めにして輸出すれば、付加価値のある商売ができると思ったのである。日本の漬物業者が粗漬けまでしか台湾の業者に指導をしないのは、この付加価値の部分を自分たちで稼ぎたいためである。したがって、日本の漬物の経験者を招んで来て、粗漬けからあとの工程を台湾の現地でやってもらえばよい。
私は日本でも指折り数えられる大きい漬物業者に呼びかけたが、漬物屋で成功している人たちは体質が古いせいもあって、海外進出ときくと尻込みをする。進取の気性をもっているのはむしろシロウトで、私の話をきいてまったく別の職業に従事している人たちが、京都の漬物屋の社長で倒産した人を連れてきた。
国内で倒産した者が海外に新天地を求めるのは、債権者に追いまわされないですむし、気晴らしにはよい方法であるが、日本国内でもうまく行かなかったくらいだから、そのまま海外で通用するわけがない。連れてきた出資者たちもパートナーとして連れてきたわけではなく、その漬物職人としての腕を買ってのことであった。しかし、いざ材料を仕入れたり、漬物の製造をする段階になると、皆いずれもシロウトだから、倒産社長の意見をきく。倒産社長のほうも、自分の意見が尊重される空気を察すると、トウトウと意見をのべる。その意見たるや、自分の小さな会社を倒産まで導いた経済観念のない方法だったから、私は驚いて全部中止してしまった。
←前ページへ 次ページへ→

目次へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ