債権者が納得しないのは、まだどこかに騒ぎ立てれば出てくるお金がある、と疑われているからである。さかさにして振っても叩いても押しても、何も出てこないことが明らかになれば、裁判所に呼び出されることも、暴力団に乗り込まれることもなくなってしまう。だからハダカになり、無一文になり、生まれたままの昔に戻れば、もう一度はじめからスタートすることができるのである。
しかし、それでも倒産をすると精神的な打撃が大きいから、正常な状態に戻るまでにかなりの時間がかかる。債務の整理、裁判所がよいなどに少なくとも二年はかかる。私はそうした出来事を周辺でしばしば観察しているので、この精神的打撃から立ち直る気力と時間のことを考えたら、腕一本むしり取られるような財務上の損失を受けても、「見切り千両」で、事業の整理、廃業に踏みきったほうが得策だと考えるのである。
ただそうはいっても、行きつくところまで行きつかないと、事の重大さに気づかない人も世の中には多い。そういう人にアドバイスできることといえば、次のようなことであろう。
(一)失った物に恋々としない。
(二)家族で協力してさしあたりの生活手段を得る。
(三)ハダカになってしまった証拠を見せる。
(四)自分の年齢や性格や能力と照らしあわせて将来のことを考える。
(五)お金だけで物を考えない生き方をする。
(六)病気あがりと同じだから、精神的な休養期間をとる。
私の知っている人で、こういう人生の失敗者たちを集めて事業をやって結構、成功をしている人がある。下宿にかわる賄いつきの学生会館で、無一文になった上に、住む家もなくなった夫婦に住み込んでもらい、賄いと管理をやってもらうと、住む心配も食べる心配もなくなった上に、月にもらう二十何万円かのサラリーが、そっくりそのまま残るから地獄で仏にあったようなものである。そういう人たちを使ってすでに十一軒の経営に成功しているから、これも時代の先端を行く新商売の一つといえるかもしれない。
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