耐えることは実に実に難しい
さて、台湾における事業の大半が左前になったときも、私は文士としての仕事や経済評論家としての仕事を持っていたので、月のうち二十日間は日本に、残る十日間は台湾でというスケジュールを続けていた。私が現地にいたからといって、傾きかけた事業がすぐ立ち直るものではないが、東京へ戻ったからといって、私が事業のことを忘れておられるというわけのものでもない。私にとってやらなければならないことといえば、
(一)さしあたりの金繰りをすること。
(二)トラブルの原因をつきとめ、迅速に応急手当てをすること。
(三)どの事業を継続し、どの事業はやめるか、もしやめないとしたら、どの時点でやめるか、決断し実行すること。
(四)痛みに耐えながら、ジッと嵐の通りすぎるのを待つこと。
こういうピンチにおちいったときは、「まったく何もしないで、ただ待つ」とか、「どこかへ逃げておれば、そのうちに自然に解決する」とかいった性質の問題ではないから、もちろん対策も必要だが、何よりも大切なことは、覚悟をきめて損に耐えることであろう。この「ジッと耐える」ことは、実に実に難しいことである。
私は台湾に行くと、もちろんそれぞれの会社の総経理(社長)や担当者から報告を聞き、しかるべき手を打つように指示をする。私がいると、私の部下たちは重荷を担いでくれる人が目の前にいるから、安堵の胸を撫でおろす。ところが私が日本へ帰ってしまうと、毎日毎日、金繰りに追われるし、しかもいつ赤字から脱がれられるという見込みがまったく立たないのだから、自分が崖っぷちに立たされているような恐怖に襲われて、夜も眠られなくなってしまう。 |