IMFで世直しはできない
(1998年10月9日執筆 『Voice』99年1月号発表)
アメリカは世界中に蔓延した通貨不安を、できればIMFで資金を調達して救済したいと考えている。アメリカ自体が議会の賛成を得られずに前回の増資分も払い込んでいないのに、IMFにそれをやらせようとするのは、世界中の問題は世界中の国々が応分にカネを出して解決すべきだと信じているからであろう。
そのきっかけとして日本の景気の遅れが世界中を危機に瀕させているとくりかえし言いがかりをつけているが、日本の不良債権の大量発生はドルを稼ぎすぎたバブルの反動であるから、日本はむしろ無辜(むこ)の被害者であろう。それを日本のせいにするのは、日本が戦後最悪の状熊におちいっているにもかかわらず、なお年々多額の外貨を稼いでおり、なんとかしてそれを吐き出させようという意図があるからであろう。現にG7を前に宮澤蔵相が三百億ドルの供出を申し出たのも、アメリカのそうした意向を汲んでの対応であろう。
しかし、世界中における通貨不安の震源地はアメリカであり、ドルの垂れ流しから起ったことであるから、アメリカがすべて責任を持つべきことであるとまでは言わないが、アメリカがそうしようとしても一国で負担しきれることではないし、またIMFを前面に押し出してそれで解決しきれることでもないだろう。世界的に通貨不安のドミノ現象が起ると、IMFが集めたおカネでは賄いきれなくなるから、次々とデフォルト宣言をされる国も現われることが考えられる。
実際に国家破産を宣言されると、正規の貿易は途絶えてしまうが、それでもその国の国民が息絶えてしまうわけではない。すぐに北朝鮮なみの惨状におちいることもないし、その中にはミサイルどころか原爆を持っている国もあるのだから、世界中の平和が脅やかされることだって起りうる。しかし、たぶん、そこに至るまでにアメリカ自身の尻に火がついて、他国の救済どころではなくなるだろう。
アメリカの株の下落は既にはじまっているし、ドル安もはじまっている。それが世紀の大暴落につながるかどうかは、今後の進展を待たなければならないが、いわゆるヘッジファンドの大損失がきっかけになって株価が下がると、下げが下げを呼んでブル(強気筋)がベア(弱気筋)の市場に一変するから、ウォール街の巨人たちがたちまち一寸法師に縮んでしまう。
となると、節約ムードがアメリカ中を支配して、産業界は空前の不景気に覆われてしまう。アメリカ国内の商売も不振におちいるが、同時に長期にわたる借金生活のつけがまわってきて、ドルを売る動きがふえるからドルが下落する。ドルが下落すれば、輸入品のコストが上がるが、節約ムードがそれに重なるから、輸入は一層不振におちいる。これがアメリカヘの輸出で息をつないでいる国々に打撃をあたえないはずがない。
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