日本で起ったことはアメリカでも起る
(1998年10月9日執筆  『Voice』99年1月号発表)
ではどうすれば、こうした壊滅的な打撃から立ち直ることができるのだろうか。もしくは再び同じ愚をくりかえさないですむ方法があるのだろうか。マレーシアのマハティール首相は、二十年に及ぶ粒々辛苦の結果築き上げてきた自国の繁栄が国際投機集団の仕掛けた通貨と株の大量売りによって瞬時にして瓦解する情景に直面して怒り心頭に発した。通貨不安の起った原因をすべて投機集団のせいにすることにはいささかの無理があるけれども、国際間をうろつきまわる投機資金という仕掛人がなければ、東南アジアの通貨不安がいまのような形で起らなかったことも事実であろう。
だから投機資金を寄せつけないようなシステムに変えるとか、外国人による株式売買には一定の制限をするとか、思いつく限りの新提案を次々と発表しているが、いまのところさほど効果的な結果をもたらしてはいない。資金の移動や活動に制限を加えれば、本質的に臆病なカネは危険水域に寄りつかなくなるばかりでなく、自由を束縛されることを極端に恐れて一目散に逃げ出すから、たちまち資金不足におちいってしまう。株式市場も冴えなくなるし、産業界も金欠病におちいってしまう。
カネにもモノにも国境がなくなろうという時代に、モノの出入りは自由にするが自分たちの都合でカネの移動は制限するというのでは必要なカネも集まって来なくなるのである。
ならば、IMFの押しつけを全面的に受け容れるかということになると、それでは融資を受けた国々がおさまらないであろう。融資を受ける条件として国家財政の緊縮を要求されるのはやむをえないとしても、外国資本による企業進出を全面的に認めよということになると、人の困った時につけ込んで企業を安く買い叩いて手に入れるチャンスを、アメリカに根拠地をおく投機集団にあたえるということにほかならず、カネによる新しい世界支配に道をひらけというようなものだからである。
そもそもIMFは経済的に破綻した国の救済をするためにつくられた国際組織だが、経済的な破綻が特定の貧しい国に限られていた間は、有効な手段として機能してきた。それによって国民感情を逆撫でするような難しさも表面化しなかった。ところが、経済的破綻がアジアの一角だけでなく、ロシアや中南米にまで波及すると、破綻する国の方が救済する国よりも多くなるし、その立て直しに莫大な資金を要するからIMFが持っている程度の資金ではたちまち底をついてしまう。
その上、救済する側のアメリカはもとよりのこと、日本やヨーロッパまでが資金を焦げつかせて倒産寸前まで追い込まれているから、自国金融機関の救済に追いまくられてよその国どころの騒ぎではなくなるだろう。
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