ドルを借りれば倒産させられる
(1998年10月9日執筆  『Voice』99年1月号発表)
かつてドルが黄金に代って世界の基軸通貨として受け入れられたのは、ドルがアメリカの国内通貨としては健全な状熊におかれていたからであった。健全な状態とは、国家財政と対外貿易がいずれも黒字であることを意味する。ドルがポンドに代って世界をリードするようになったのもそうした条件を備えていたからにほかならない。ドルはまたかつては黄金を裏付けとした通貨であった。だからドルを持てば、間接的に黄金を裏付けにした通貨として受け入れられた。
ドルが黄金の裏付けをやめたのはニクソンの時代になってからであるが、そうなったあとも外貨準備として有効だったのは、アメリカ経済にそれだけの実力と信用があったからである。諸国の中央銀行としても金塊を中央銀行の地下室に眠らせておくよりも、紙幣発行の裏付けとしてドルで持てば、ドルの運用による利益を得るチャンスがあったからである。
ところが、カーターの時代になってアメリカは財政上でも、国際貿易上でも赤字化が定着するようになった。レーガンになってからはソ連に対抗して「強いアメリカ」を誇示する手段として巨額の国債を発行して軍拡に乗り出したのでソ連を崩壊解体させることには成功したが、財政と貿易の双子の赤字を誕生させることになり、やがてそれがアメリカに定着してしまった。実はそのどちらもアメリカの政府にとって大きな負担になったので、世界一の金持ちの国が見る見る世界最大の債務国に転落してしまったのである。
世界最強の債権国が世界最大の債務国に転落しても、アメリカは世界最大の消費国であることに変りはなかったから昔と同じように世界中から物を買ってくれたし、アメリカに物を売っている国々は喜んでドルを受け取った。ドルにはそれだけの信用があったし、ドルさえあれば欲しいものは何でも手に入れることができた。またアメリカの国債を買ったり、株に投資したりして収益を上げることもできたからである。その一方でアメリカの対外債務は縮小するどころか、ますます拡大している。端的にいえば、ドルを印刷して借金の支払いをする自転車操業が長期にわたって続いているのである。
それでもなおアメリカが倒産の憂き目を見ないですんでいるのは、第一にドルを刷る権限がアメリカ政府の手中にあるからである。もう一つにはいくらドルが外国人の手に移っても、ドルは運用されるために、必ずドル市場に還流してくるからである。
もちろん貿易赤字が続けば、アメリカは日本や台湾や中国などの貿易黒字国にドルで代金を支払わなければならない。代金を受け取った国々は、ドル建ての資金を見返りに自国紙幣を発行して自国の輸出業者に支払いをするが、輸入に使う外貨をさしひいた黒字分は準備金として手元に残るので、それをアメリカの金融市場に持って行って運用する。
民間の機関投資家なら、株を買ったり、投資信託を買ったり、あるいは不動産に投資することもあるが、政府資金は大半が安定した先進国の通貨に換えられ、その国の国債に投資される。なかでもアメリカの国債中心の運用になるのは当然の成り行きだろう。たまたまアメリカのような巨額の財政赤字を抱えている国では、国債の借り換えのためにまた国債を発行するので、投資対象に困ることはないが、結果として貿易黒字国の稼いだドルがアメリカの財政赤字を賄う形になっている。
また機関投資家や個人の場合は、株や投資信託に投資されることが多いので、それがアメリカの金融資本として世界中を縦横無尽に動く遊資に変身する。これらの遊資は必ずしもアメリカ人の所有とは限らないけれども、いったんアメリカに集められると、金の儲かりそうなことになら、たとえ倫理的にどうかと思われるようなことにも、遠慮会釈なく投じられるようになる。
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