では、どうするか。まず考えなければならないことは、いま起っていることは不景気ではなくて、社会成熟化による産業界の構造変化だということである。構造変化だから、産業界が活気を取り戻したとしても、産業界が元へ戻ることは考えられない。淘汰される企業は淘汰されるし、淘汰されないで生き残る企業も経営理念や戦略を一新せざるをえなくなる。というのも生産中心の経済から生活中心の経済に移り、生産経済で競争に打ち勝って行くために、生産基地を外国に移したり、あるいは新製品の開発に全力投球をしなければならなくなるからである。
生活中心の経済とは、お金の使い方が生活中心になるということである。生活に対する価値観は人によって違うけれども、豊かな社会におけるお金の使い方は次のような優先順序になる。まず第一はエンターテインメントに大きくお金が流れるようになった。テレビを見ても新聞雑誌を見ても、スポーツや映画演劇などお遊びの占めるスペースはふえる一方である。ついこのあいだも、アントニオ猪木の引退興行が行われたが、この一日のために十億円のお金が動いたそうである。オリンピックやワールドカップになると、テレビも主催地のホテルやレストランもファンに全面占領されてしまい、そういうことに関心のない人は片隅に追いやられてしまう。もちろん娯楽はスポーツだけでないし、見て楽しむものもあれば、自分がやって楽しむものもある。
しかし、これだけ普及し多くの人々に支持されれば、大産業になる。何の生産性もないのだが、スターになった選手たちは観衆が莫大なお金を支払ってくれるおかげで、大企業家に匹敵するほどの高額所得者になる。堅気のビジネスマンにとっては心穏やかならざるものがあるが、それが飽食時代の風潮であってみれば、産業界そのものがそれに適応していかなければならないだろう。いまや遊びの世界のスターたちは成熟化社会の新興貴族階級であり、首をつって死んでもその葬式には、同じことをやった日銀理事の百倍もの若者たちが参列する時代なのである。
第二は飲み食いである。飲食業は人が生きているかぎり存続するものであるから、不景気になっても、また成熟化社会になっても物品販売業ほどおちこまないですむが、それでも時代の要求に合わなくなったやり方をすれば容赦なく淘汰されてしまう。しかし、それと入れ代って次々と新しい店が誕生するから、つねに新しいチャンスを提供する業種であるといってよいだろう。
第三は海外旅行である。わざわざ海外旅行といったのは、国内旅行も旅行に変りはないが、交通手段が発達したために安い費用で遠くまで行けるようになったことと、逆に日本国内は、航空運賃や鉄道運賃の割引もなく、旅館やホテル代も外国に比べて割高だからである。外国旅行は年々ふえて、この大不況のなかでも連休になると、四十万人も五十万人もの人々が蝗の大群のように海外に飛んでいく。こうした傾向は今後もふえることはあっても減ることは考えにくく、かつ彼らの海外でおとすお金が貿易収支の黒字を消す役割をはたしてくれる。
日本のいくつかの企業集団が世界的なホテル・チェーンを買収して失敗に終り、いま挫折感を味わっているところであるが、将来この分野で日本企業が捲土重来をはかるときが来ることがないとはいえない。儲かる儲からないは別として、旅行業が成長産業の一つであることに変りはないからである。

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