レストランとかバーとか、コーヒー・ショップの類いは景気不景気に敏感な業種と思われている。景気が悪くなれば、飲食店の売上げがおちることは業界の常識である。バブルがはじけてからこの方、飲食店はずっと低迷の一途を辿ってきた。私は不況の長期化を見越して、レストラン業に従事している友人たちに、すぐにも値下げを勧告した。なにがなんでも安くしろといったわけではないけれども、会社のお金を使って飲み食いをするいわゆる社用族がいなくなり、税金を払ったあとの所得のなかから自腹を切って飲食に来る人が中心になるから、そうした人々が痛がらないですむ値段に引き下げるようにアドバイスをしたのである。
日本料理店にしてもフランス料理店にしても、お酒を飲んで食事をして、税金、サービス料も加えて原則として一万円を超えないことを一つの目安にした。もちろん、もっと安くすれば若い人がもっと集まるから、お店はもっと繁盛する。しかし、料理が美味しいこともムードがよいことも、値段の安いことに負けないくらい大切なことだから、儲けがなくなってしまうほど安くする必要はないのである。
ところが、レストランを物品販売業の一環と心得て創業した新興業者のなかには両者の区別すらできない人がたくさんいる。そういうレストラン業者のなかには、百二十円のハンバーガーを八十円に値下げして同業者の商売をとろうと試みた人もいる。それによって空前の売上げを達成したというから、一応の目標は達したことになるが、味より値段の安さにとびつく人たちはいずれ食を重んじない人々である。そういう人たちを相手にしている以上、競争に敗れないために急遽、値下げをしてこれに対抗しようとした同業者が多かった。しかしその結果は、スーパーの安売り競争と同じく見る見る業績が悪化してあわてて方向転換をしたチェーン・レストランも一社や二社ではない。
さいわいにも飲食業はすぐにも手直しのきく業種だから、間違ったと気がつけば軌道修正ができる。というのも、物を買うのと違って、食べることは三度三度おなかが空いて、食べないですませるわけにいかないものだからである。外で食べるか、それとも家で食べるか、また誰とデイトをするか、あるいは仕事のことで会食をするのかといった違いはあるが、不景気だからといって食べることにも、食べる回数にもさして大きな違いはないのである。
しかし、誰がお金を払うかによって、どこにお金がおとされるか、またどんなお金の支払われ方をするかは違ってくる。げんにバブルの崩壊によって物が売れなくなり、会社が損をする番になってからは、飲食のために会社から支払われるお金は大幅に減少した。となると、社用族をあてにしたサービス業はいっさい成り立たなくなってしまう。そのうえ官官接待や許認可のために役人を接待することまで規制されるようになったので、そういうお金をあてにした飲食業は潰滅に瀕している。では、そういう高級飲食店はすべて淘汰されてこの世から消えてしまうかというと、そうともいえない。
たとえば一人前十万円もする食事をしに行く人は少なくなるだろうが、一人前十万円の食事を出していた高級料亭が一万円で食べられる料理を出せば食べたいという人はたくさんいる。またそういう店が二千円か三千円で食べられるお弁当をつくれば、少々高くてもデパートの食品売り場の人気商品になるだろう。レストランで人々がどんなお金の払い方をするかを見れば、成熟した社会では安売りだけでピンチが切り抜けられるものでないことがわかるのである。
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