家電製品のディスカウントストアのように単品あたりの粗利が減っても、量販によって減った分をカバーできれば、店としての利益を上げることはできる。町の電気屋さんを相手に家電量販店が業績を上げることができたのは、相手が零細な町の電気屋さんだったからである。量販店同士の競争となるとそうはいかない。同じようにスーパーが罐ビールを安売りすれば、一時的に売上げはふえるだろうが、人間の胃袋は一定だから、ビールの売上げのふえた分だけ日本酒やウイスキーの売上げがおちる。単価の安いビールの売上げがふえて、売上金額の増す商品が逆に減ったのでは何をしたのかわからなくなってしまう。
この手の安売りを同業者同士で争うとなれば、安売りをした分だけ売上金額はおちるし、当然、利益もおちる。家電製品の安売り屋さんが新聞に大広告を打って店をふやし、売上げもふえているが、そのたびに何千円もしていた株価が何百円台におちてきたのを見ても、安売りが利益低下の最大の原因になっていることがわかる。
家電量販店もそうだが、スーパーに対抗して日用品のすべてにわたってもっと安売りに徹してきたディスカウントストアの末路はさらにみじめである。安売りの原点に戻って、安売りに徹するために店のインテリアにはいっさいお金をかけず、天井も鉄骨をむき出しのままにし、トイレにはタイルすら貼らなかったディスカウントストアがあるが、そういう店にはお客が集まらなくなってしまった。
安売り屋さんのなかには商売がうまくいかなくなって有力なスーパーの傘下に入ったものもあるが、安売り屋さん同士で競争をするので、家電製品のような値の張るものは専門の家電量販店にお客を奪われ、食料品くらいしか売れなくなってしまった。その食料品も安く売らなければお客が集まらないから、見る見る採算が悪化して斜陽産業の仲間入りをしてしまった。
こういう環境で代表的なスーパー同士で安売りをすればどういう結果になるかは予想をまたない。ダイエーの中内さんのように安売りから出発して必ずしも安くない商品を売るようになった人は、どうしても安売りの原点に戻ろうと考える。しかし、もはや戻るべき原点は残っていないのである。なぜならば、お客はいまや三、四十年も前の貧乏な時代のお客ではないし、また店に並んでいる商品も安さだけで選択されるような性質のものではなくなっているからである。安く売ることよりも、お客が欲しがっているときに商品が品切れにならないように気をつけることのほうがよっぽど大切な時代になったのである。
だからお客を満足させる商品は何か、売れる商品構成とは何かということが安いということと同じくらい大切であり、どちらかというとそのほうが企業の収益に貢献する時代になってしまったのである。
というわけで、ダイエーの中内さんが自ら価格破壊者の一番打者として名乗りをあげてから二年もたつかたたないうちに、ダイエーの業績が見る見る悪化し、中内さん自身が「安売りは誤りだった」と認める発言をせざるをえなくなった。
そして、九八年二月期決算でとうとう創業以来初の二百五十億円という大赤字を計上することになってしまった。小さな薬の安売りからスタートして拡張に拡張を続け、戦後の日本経済の成長をそのまま絵に描いたような日本一の流通業者になったダイエーが、阪神大震災といった災難に見舞われたとはいえ、創業以来の大ピンチに遭遇したのはけっして偶然ではないのである。
商売をやる人は、客足が遠のけば値段を安くすればまたお客が戻ってくるのではないか、と考える。だから景気が悪くなると、まず手がけることは値引きである。値頃感が商取引をやるうえで最重要なキーポイントであることは議論の余地がない。しかし、安売りが唯一の起死回生策でないこともまた確かであって、値段が安ければ誰でもとびついてくれるわけではない。不景気になってからのレストランの最近の動向を見ればすぐにも納得のいくことである。
←前ページへ 次ページへ→

目次へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ