死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第105回
妻を長持ちさせるには

むろん、私も男だから、
仲間を売るようなことはやらないつもりだが、
女の役割は正当に評価したいと思う。

家庭内における女の役割を考えれば、
配偶者控除二十九万円はどう考えても不当で、
一家の中で男にしか収入のない場合は、
一人分を二つに割って二人の所得に分けるべきであろう。

もしそうすることが税収の激減につながるから
実現不可能だというのなら、
各人が自衛力を発揮して家族会社をつくり、
妻にも給与所得があるようにすべきだろう。
さもなければ、妻も働きに出て
実際に給与所得をもらった方がよい。

妻に経済力がないような状態にしておけば、
離婚が避けられると思うのは明らかに主客転倒で、
逆に妻からかみつかれる時代になってしまったのである。

男に伍して女が職場に進出する動きは
もはや避けられない時代の傾向である。
女に経済力がつけば、女の発言権がいよいよ強くなって
離婚の機会はいよいよ多くなる。
このことはアメリカの例を見れば、
一目瞭然である。

では女を働きに出さなければ、
離婚の風潮を食い止めることができるかというと、
働く女に比べて家庭にとじこめられた女は世間知らずになり、
知恵もきらめきもなくなるから、
女としての魅力は一段とおちる。
その意味では、女の職場進出を堰止めることはできないし、
したがってまた離婚の風潮を食い止めることもできそうもない。

世の男たちは時代が下がるにつれて
ますます離婚の恐怖の中で生きることになるのである。

しかし、女に経済力のないまま離婚をすれば、
女は忽ち生活に困ってしまう。
それを救済するために、
アメリカの裁判所は妻の是非を問わず、
すべて妻の側の肩を持ち、
男を家から追い出した上に子供の養育費から
妻の生活費まで男に支払わせるようになってしまった。

シングル・ファーザーになってしまった男たちの
あの不当な扱われ方を見れば、
アメリカのような状態になる前に、
男たちを救済する必要があるように思う。

それには女たちを働きに出して、
少なくとも経済条件を男女平等な状態にしておいた方がよい。

女も男と同様に経済力があるようになれば、
女の発言権が強くなって
女の方から「出て行け」と言われるようになるかもしれないが、
別れたあとに女が路頭に迷う心配は先ずなくなる。

離婚になっても、女が不等に扱われないようになれば、
今までより離婚は多くなるだろうが、
そういう状態の下でなお二人で共同生活をして行く意志があれば、
おのずから結婚を成り立たせる要領を
得るようになるのではあるまいか。

私は長いこと、妻を働かせることに
積極的な賛意を示さなかったが、
妻を長持ちさせるためには、
妻にも仕事をもたせた方がよいのではないかと
最近は思うようになった。

年をとらないためには「死ぬまで現役」がよいと言ったが、
妻から退職願いを出される前に、
こちらがこの世におさらばを告げた方が
面倒がなくてよいとも思っている。

そのためには妻の注意力を、
仕事やお金に向かわせておけば、
亭主の無能ぶりもさほど気にならなくなるから、
別れ話になっているヒマがないのである。

しかし、もしそれでも別れ話になったら、
妻の関心をもっぱら手切れ金のところにひきつけて、
チョウチョウハッシとやればよい。

うちの女房に言わせると、
「もう今更、離婚をする気はありません。
離婚はしませんから、私の自由に使えるお金を下さい」と、
ちょうだいのカッコをして見せる。

自分で稼げたら、ちょうだいなどと言わなかっただろうに、
若い時に自分でお金儲けをしてごらんなさいと、
煽動しておけばこちらのお金を使われなくてすんだのに、
と思っても、五十すぎてからではもう間に合わない。

あれもこれもすべて亭主の短慮にはじまっているから、
これからも女房のゼイタクのつけを払わないわけには
行くまいと思っている。





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2012年3月22日(金)

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