第43回
スピーチが左右する披露宴
「それはさておいて、新郎よ、
英話辞典をひらいて、マン、というところを見て下さい。
男、人間、人類、と書いてあります。
それから、ウーマンというところを見て下さい。
女としか書いてありません。(笑)
つまり女は女であって、人間でも人類でもないのです。
女は虫けらか、ネズミの同類で、人間の仲間には入らないのです。
そういう虫ケラやネズミの同類と一緒になるのですから、
人間扱いにする必要はないのです。(笑)
もっとも私がこういうと
お怒りになる女の方もあるかもしれません。
しかし、お怒りになることはありません。
英話辞典の編集をしたのは男です。
男だから、マンを人類としたのであって、
女の編集者が英和辞典をつくったら、
また別の解釈になっている筈です」
以下、中村さんのスピーチは何とえんえんと二十分に及んだ。
しかし、中村さんが一言喋る度にドッと笑いがまきおこり、
完全に中村さんのペースにまきこまれてしまった。
その詳細についてはここに述べない。
著作権にもかかわりのあることだから、
今か今かと出版を心待ちされている
「長い長い結婚式のスピーチ」の売れ行きにも
影響するかもしれないからである。
強いて解説をすれば、中村さんのスピーチには禁句がないこと。
たとえば、離婚とか別れ話とか死ぬ事とかが
遠慮会釈なくとび出してくる。
「女房をもらうのは、
キンピラごぼうや芋の煮っころがしをつくってもらうためで、
あとのことは全部そとで間に合います」(笑)
というように、ユーモアとペーソスが織りまざっている。
翌朝、ちょうど四人会の日で、
朝早く井原隆一、高島陽、長谷川慶太郎の諸氏と
帝国ホテルで顔を合わせたが、
「いやあ、昨夜の中村武志さんのスピーチは大傑作だったなあ。
僕たちにはとてもあれだけのスピーチはできませんなあ」
というのが四人に共通した感想であった。
良いスピーチに出会うことが
結婚披露宴の盛り上がりを決定するのである。 |