死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第21回
「隣同士で坐りたい」とはいえ

円卓を離れてコーヒーになると、
応接間の座席は二つに割れて女は女同士で、
男は男同士で、話題が別れてしまう。

うちの息子の結婚式が近づいた或る日のこと、
話題はしぜん子供たちの結婚に及んだが、
奥さんたちは知らない同士、
披露宴で隣に坐る堅苦しさを痛感していると見えて、
「坊ちゃんの結婚式の時は隣同士に座りましょうね」
と言いあっているのを私は耳にした。

確かに、経済評論家家のセンセイたちと
経済雑誌の人たちだけを一つテーブルに集めれば、
それで事はすんでしまう。
しかし、それはさきに述べた
同業組合の理事会に通ずるものであり、いささか芸がなさすぎる。

評論家のセンセイは皆、全国各地を講演してまわっており、
それぞれにファンも持っておられる。
それらのファンは大抵、社長業をやっている人たちであり、
当日出席する私の友人たちのなかにも、
「こういう機会にあの人と同席できたら、いいなあ」
と思っている人はたくさんいる。

そう思ったので、私はニヤニヤ笑ってきいていたが、
実際に座席をきめる段になって、
奥さんたちには申し訳なかったが、
三人をそれぞれ別々の三つのテーブルに分散してしまった。

先ず高島陽さんの隣には
「吉永プリンス・ライター」の吉永貞雄氏、
高島夫人の隣席には、きものの「鈴乃屋」の社長の小泉清子さん、
また井原隆一さんは奥さんが高血圧で療養中なので、
右隣はフラワーマンションで有名な「長谷部建設」
長谷部平吉社長、左隣はシンガポールや
南米にまでその名を轟かせたスーパー「八百半」の和田一夫社長。

そして、長谷川慶太郎さんのお隣はリース・マンションで
いま売り出し中の「丸興商事」の金沢正二社長、
長谷川夫人のお隣には「中野組」副社長の米山卓氏。
但し、米山氏が退屈しないよう、
そのお隣にはサッシュの最大手、「三和シャッター」専務の
藤岡明義氏、そのまた隣には、
マンションの中堅業者である「堀内建設」の
堀内好郎社長に坐っていただいた。
万一、テーブル・スピーチが面白くない場合でも、
商売の話ができるようにと、配慮したのである。





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2012年12月12日(水)

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