第286回
犬とXXX入るべからず
イザベラ・バードという人が19世紀末の朝鮮を書いた
「朝鮮紀行」という本を読んだことがあります。
それに、地元の知識階層の朝鮮人達が勝手に船に乗ってきて、
カーテンを引き上げて彼女を見物する話が出てきます。
一方、
「一般庶民の好奇心はすさまじいものの粗野ではなく、
(彼女が)食事をする時でもたいがいある程度離れて見物していた」
そうです。
私の友人のデンマーク女性は、
今でも四国のご主人の田舎で、
地元の人に珍らしがられて困ることがあるそうです。
彼女は恥ずかしがりやなのです。
ウィーンで「水着と裸が無料」という美術館試みがありました。
あの試みも、
服を着た見物人が集まってきてジロジロ眺めるようだと、
あまり心地よいものではないでしょう。
私の友人のフリーランスの日本人写真家が、
海岸で日光浴をする写真を日本から頼まれたことがあります。
コペンハーゲンの海岸に行くと、
ビキニに混じって上半身裸の女性が沢山混じっていました。
カメラを向けると、近くにいた男の人が自分の頭を指して
“ちょっと頭がおかしいよ”という仕草をしました。
新聞社のマークでも付けていない人に、
リラックスしているところを勝手に写真を撮られるのは
どうも落ち着かないのです。
公園に立っていたとされる
「犬と中国人入るべからず」の看板は、
有名な人種差別の例として引き合いに出されます。
当時、上海のその近所に住んでいた
クロウというアメリカ人ビジネスマンが本を出しています。
それによると、実際は、世界的に有名になった
「犬と中国人」を並べた看板は無かったそうです。
ただし、
「沢山ある規則の中に
実質的にそういう内容を盛り込んだものが混じっていました」
と、戦前に語っています。
確かに、植民地慣れした人達のすることだから、
そんなに露骨な、問題になりそうな侮辱はしないだろう、
と、いう気もします。
その辺が彼等の盲点で、差別していることに無神経なのですね。
それでも、そのような規則があったことは事実で、
それが非常に侮辱的なことは論を待ちませんが。
その後、パスを発行して、
パスを持っている中国人と、
その同伴者だけを入れるようにした時期があったそうです。
ところが、パスを持っている人が同伴者をゾロゾロ伴ってきました。
そして、彼等の公園に入る目的は外国人見物でした。
こういうことが外国人を落ち着かない気持ちにさせるということで、
苦情が出て、パスも取りやめになったいきさつがあるそうです。
顔つきは一見平気そうに見えても、
欧米人も私達と同じように文化摩擦でストレスを感じているのです。
この中国人の行動も、日本人写真家と同じレベルの無神経です。
私達は、相手も同じ人間だということを忘れると、
つい頭がまわらなくなるのです。
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