第162回
兎がつかまると犬は煮込みになる
私がデンマークに来た時と同じ頃、
1人のトルコ人が小さな村からやって来て、
コペンハーゲンの中央駅に降り立ちました。
その人がデンマークを気に入って、村の仲間に吹きまくったのか、
その村の人達はこぞってデンマークにやってきました。
山のトルコ人と呼ばれるクルド人達です。
彼らはトルコでも差別されたり摩擦を起こしたりしていますが、
それでもデンマーク人達と話をする時は、トルコの弁護をします。
国から一歩出ると、トルコ人代表の気持ちになるようです。
彼等を含めたデンマークに住むトルコ人の数は、
今では5万人にもなりました。
サダム・フセインにイラクで虐殺され、
トルコでも差別されるクルド人は、
他人の言うことをきかず、まとまりにくい人々だそうです。
全クルドを手に入れることに、
クルド人の誰一人として成功しなかったので、
国を作れなかった民族です。
独立のチャンスもあったようですが、
小さな群雄が割拠して、
国としての意見を統一できなくてチャンスを逃したそうです。
強盗団あがりでもなんでも、
人々をまとめる人がいて、国を作り、身を守らないと
この近辺では生きていくのが厳しいようです。
同じ民族が今トルコとイラクの国境に分けられて、
不自由に暮らしています。
強盗の親玉のようなイラクのサダム・フセインが力を手にすると、
すぐに元の有力な仲間を粛清にかかりました。
会議の様子をテレビで見ていると、サダムに有罪を宣告された、
元の仲間は憤然として立ち上がりました。
そして彼らは一人、又一人、と若い兵隊に連れ去られました。
画面は議長席に移り、友を失う悲しみに(?)
目頭を押さえて沈黙するサダムを映していました。
読みの浅い私には、
ともに戦ってきた功労者でこれからも役に立つだろうに、
何でそんな不人情なことをするのか、不思議でした。
功労者に報いないと、これから人も付いてこないではないか、
とも思いました。
ところが、最近ある本を読んで、成る程と思いあたりました。
天下をとった後は、その過程を手伝ってくれた強盗仲間は、
しばしば危険なのでした。
または、そうでなくても非常に邪魔になるわけですね。
そういえばスターリンも同じようなことをしていました。
天下という兎が捕まったら、猟犬は要らないので食べられてしまう。
「狡兎死して走狗煮らるる」という言葉は、
洋の東西を問わず、独裁者のとる、珍しくも無い行動なのでしょう。
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