第152回
中国は、惜しみなく職を奪う?
私が学童保育の仕事をしていた頃、
仕事の合間に仕事仲間と色々な雑談をしました。
といっても、
私は興味を持って聞くだけのことが多かったのですが。
お茶の時間には、
近くの木立から採ってきた木苺などからジャムを作り、
それを乗せたパンを食べ、紅茶を飲みました。
ある日、お茶の時間に、
ユトランド半島から出てきた同僚の、定年も近い女性が言いました。
「日本に・・・」―ここで、ごめんなさい、と間に私に謝って―
「テキスタイル工場の仕事を盗られて、
私の知り合いのミシン工が失業しました」
“安価な日本製品のおかげで、ヨーロッパに失業が溢れて困る”
と、その頃は多くの人が思っていたのです。
と、それから30年後のある日、
フランス人のムリエルは心配そうに私に言いました。
「こんなに中国の製品ばかりになったら、
フランスはどうなるのでしょう?」
故郷のプロヴァンスの辺りでも、工場の閉鎖の話は多いのです。
一方、中国には関係ありませんが、
デンマークの最大の精肉工場が数ヶ月前に、
「賃下げか工場移転か」を従業員に問いました。
頭の固い組合の幹部は「徹底抗戦」の方針で組合をリードして、
半月もしないうちに、工場は東欧に移転することが決まりました。
「やることはやったもんね」と
インタビューに答える組合幹部も含めて、もちろん全員失業です。
中国に限らず、国境の垣根が低くなるにつれて、
賃金の平均化が起こっているのです。
“高い方が足踏みして低い方が追いつく”とか
“高い方の賃金がデフレ”と、いうこともおこります。
けれどもそれは古い職種のことで、
ITの分野では高賃金の新しい仕事が待ち構えています。
妻の勤めていた携帯電話のノキアの開発部でも、
20代で1軒屋を買っても、
まだ生活に余裕のある新入社員が何人もいました。
私は30年前のおばさんの心配をムリエルに告げて、
反対に質問しました。
「その頃に比べてフランス人の生活は貧しくなりましたか?」
「ノン・・・ですね」
「だから、これからも同じことが起こるのですよ」
「中国が豊かになってヨーロッパ、アメリカや日本と並ぶのです」
「フーンそうか。それならたいへんいいです」
「失業した人達はしんどいことになるけど、若い人は大丈夫。
元々そういうものだと思ってやっていきますよ」
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