第138回
ほかされた、王室のストーブ
シルクハットの粋な人、
黒い上下に黒い靴、
梯子を担いで自転車に、
乗ってる人は誰でしょう?
初めてその人を屋根の上に見つけた時は、ビックリしました。
私がよく見ると、煤で汚れて顔でにっこり笑ったので、
ようやく煙突掃除屋さんと分かりました。
汚れる仕事にしては立派な服装なので、
最初は、たまたまふざけている人を見たのかと思いました。
ところが、煙突掃除屋さんというと、
誰でもその風流ないでたちなのでした。
煙突のある家は、年に2回ワイヤーの先にブラシの付いた物で、
掃除してもらうのが義務付けられています。
最近は地域暖房が増えたので、煙突掃除の仕事は減りました。
それでもストーブで薪を燃やして楽しんだり、
暖房費の節約をしたりする家も多いのです。
一昔前はコークスを燃やすストーブが全盛でした。
今はシンプルで美しいデザインに取って代わられましたが、
その頃は装飾を施した豪華なストーブが多かったのです。
もうコークスを使いませんから、
たくさんのストーブが破棄されました。
その古いストーブの中で、
デザインの凝った物や美しい物を集めて
売っている人を見つけました。
倉庫には王室の紋の入ったストーブもたくさんありました。
私は、薪も燃やせる内部の大きい物や、
形の良いストーブを選んで、
長野の北欧の家にたくさん送ったことがあります。
ストーブはいくつかのパートになっていて、
積み木のように組み立てられるのでした。
鉄を型に流して作ったものなので、厚くてたいへん重たいのです。
長野の友人は、
それを北欧のハウスのキットや家具と一緒に売るつもりでした。
あれから13年、私の日本の友はまだ1つも売っていないようです。
神戸に地震のあと、
売ったストーブが地震で倒れることを心配したのだそうです。
私は、ストーブが倒れない工夫は出来ると思うのですが、
友人は「幾らですか」と、尋ねる人が現れても、
売りたくないのでした。
こういったストーブは、
デンマークでもミュージアムでしか見られなくなってきました。
売り上手でなかったのが怪我の功名で、
値段も上って少しは儲けてくれると、送った甲斐もあるのですが。
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