第122回
それを言ったら始まりよ
デンマークの美術工芸大学に留学しに来る日本人は、
毎年いるようですが、その中の何人かと知り合いになりました。
Tさんという女性は、
日本では有名な工芸家のお嬢さんだそうで、
のんびりとおおらかなところが特徴でした。
香港で地元の知り合いに食事に招待されて、
一生懸命たくさん食べたので可愛がられたそうです。
そういう無邪気で素直なところのある人でした。
その彼女によると、
日本では建築家はデザイン重視で、
後のことは考えなくても通るのだそうです。
それが実用に耐えるかどうかは考えなくとも、
何とかなるのだそうです。
なるほど建築家の実験の犠牲になったという施工主もいるはずです。
彼女の建造物もとりあえず美を求めたデザインで、
私が見ても例えば
屋根に積もる雪や雨の処理などは考慮外なのが分かります。
するとデンマーク人はその点について質問してくるそうです。
「チクチクと・・・」とTさんは言っていました。
私はチクチクと話すようなデンマーク人はほとんど知りませんが、
聞いて欲しくない質問をする人はいます。
そして逆に、デンマーク人が同じような質問をされた時は、
そういう質問にも普通はキチンと答えます。
ですからこの場合も仕事に関することでもあるし、
多分疑問点を単刀直入に客観的に質問しただけかと思います。
その問いに率直に返事をしないと、
誠実さの信用に陰りが出てしまうかとも思います。
私はTさんが素直な良い人だと思っていたので、
痛い質問にも答えて、
質問者と一緒に問題点を考える態度が欲しいのでした。
そうでないと“はっきりしない”とか、
“ずるい”人間に見られてしまうおそれがあるのです。
妻の働いていたノキアは、
アジアに下請けの中小企業がありました。
日本からはたいてい4、5人で会合にやって来ました。
ノキアの人が何か英語でいうと、
日本人同士で「コショコショ」と、なにか話し合うそうです。
そしてノキアの社員の印象としては、
全体としてどういう結論になったのか
「どうもはっきりしない」会合に終ることが多いのでした。
もったいない話だと思います。
妻は
「1度会合に参加して、何を話しているのか通訳してください」
と、頼まれたこともありました。
でも結局、ノキアの人は
そんなことをするのはよくないと考え直したのか、
実際には妻が出席することはありませんでした。
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