前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第110回
俺は若くなんかないやい!

レストランで給仕をやっていた友人が
「俺はユダヤ人が嫌いになっていくよ」と嘆きました。
彼の働いていたレストランに、
イスラエルのおばあさんの団体がやってきたそうです。
テーブルに着いて食事を始めたその中の一人が彼を呼びました。
友人は呼ばれたのは分かっていましたが、
仕事が能率的に出来るように一つの仕事をまとめたので
少し行くのが遅れました。
「皿の片付け」を先にしたとか、
「注文のビール」をまとめて運んでおばあさんを後回しにした、
とかいった程度のことでした。
すると白髪のおばあさんは怒り狂ってマネージャーを呼んで
「あの若い人が私の番なのに無視して・・・」
と怒りに声を震わせたそうです。
“若い”と、いうのは特に人を軽んじた言葉ではないのですが、
友人は“俺は若くないやい!”と、気分を害しました。
そして婦人の様子を見て
“こうなったらもうダメね”と諦めました。
そして黙ってマネージャーの横に立っていたそうです。

彼が言葉で説明できれば、相手は納得はしてくれなくとも、
彼の行為が無視や差別ではないとは理解してくれたと思うのですが。
なぜおばあさんはそんなに怒ったか・・・。

私達はイスラエルのスーパーで買い物をしたことがあります。
ある時ひとつの列の前の方がつかえて、
そこだけ遅々として進まないことがありました。
見ると、要領が悪いので異様にのろいらしいおばあさんが、
キャッシャーの人と何か問答をしていました。
そして財布を取り出して小銭をゆっくりゆっくり摘み出して、
数えながらトレイに乗せます。
横で見ていて私は勝手にイライラしましたが、
その列の後ろの方の人達は財布の用意までしていますが、
少しもいらついていません。
ヨーロッパでもだいたいそうですが、
じっと待つ買い物客ばかりなのでありました。
日本と違って、そこでは要領の悪い人も弱い人も含めて、
一人一人が充分に自分に必要な時間を使うのが当然のようでした。

イスラエルは非能率な国ではありませんが、
能率よりも順番や人間の権利が絶対に優先するようです。
“能率第一。押しのけんと自分の番が来んがな”
の中国とはこれまたえらい違いでした。
だから私の友人が手順を優先した事を説明しても、
手順優先よりやっぱり順番どおりの接客を要求したと思います。
でも説明さえしていたら
「差別された」「無視された」という誤解は解けたと思います。

「知らない国では勘違いするもの」と、肝に命じようと思います。
思い違いで互いに悪い印象を持つのは悲しいです。


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2004年12月17日(金)

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