第98回
驚きと悲しみの警察署
妻と私と自称ガイドと通訳の若者を乗せた
古い古いベンツのタクシーは、
再びあのガンビア国立警察所の前に着きました。
さっそく自称ガイドの男は
前庭に座っていた4人のポリスの所に行って、
一人一人と握手をしました。
なんか嫌な雰囲気でしたが、
おまわりさんは私達に
「ウエルカム トゥー ガンビア」と言ってから
双方の言い分を聞きました。双方が英語で事情を説明します。
ところが、私の心配をよそに
自称ガイドは一言も嘘をつきませんでした。
勿論都合の悪いことは詳しく述べませんが、
言っていることは“事実のみ”それのみであったのです。
「(男は)私はヘルプしようと言った」とは言いますが
「(私たちが)金を払うと言った」とかいった嘘は言わないのです。
イスラムという宗教を持っているからなのか、
またはそれとは別のモラルなのか分かりませんが、
これにはまったく感心しました。
「お金が手に入る」と思って、
その気になったらなかなか諦められないだけで、
人は元々そう悪くないのが分かりました。
その後でカーキ色の服を着た警官は、
男を立たせて足を開かせてその前に立ちました。
そしていきなり大きなモーションで、
男の頬を思い切り引っぱたいたのです。
右の張り手のあまりの勢いに男の体が左に傾くと、
今度は反対の手で引っぱたいて体は右に傾きます。
最後は両手で挟むように
思い切り引っぱたいて真っ直ぐにしました。
これにはまったくたまげて、私達は再び立ちすくみ
“こんなことになるならお金をあげるんだった”と思いました。
その次は調書を取るために建物に入って又ビックリしました。
暗い内部には格子の付いた着替えのロッカーのような物が
ズラリと並んでいました。
そしてそのロッカーのほとんど全てに、
格子を内側から両手で握って
ギョロリとした目でこちらを向いている男達がいました。
西部劇の保安官事務所みたいで、
それよりぐっと狭い拘置所が警察所の中にあるのでした。
そして感心したのが、男を荒っぽく引っぱたいたあの警官です。
警官は短い鉛筆をなめなめ、私たちが外で語ったことを
「“見知らぬ男に、名も知らない町に連れて行かれた”と、
こうこうかい?」
ギョロリとした上目遣いで私達を見て確認しながら、
論理的で簡潔な文で調書に書いていくのです。
私達の下手な英語のばらばらな供述をみごとにまとめます。
これにも本当にビックリしました。
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