第75回
不動産屋―レオナルド・ダ・ビンチ
ケンには
「広告用の写真を撮りにいくから部屋の掃除を頼むよ」
と言っておいて、後で見に行きました。
ケンは「さあどうぞ」と
誇らしそうに胸を張って部屋に案内してくれましたが、
本棚もテーブルの上も片付いていません。
写真を撮って広告するというのに、
汚れた皿などがなければそれで良いと思っているのでした。
ケンが引っ越した後で壁も窓も塗り替え、
トイレの蓋なども新しくして次の買い手にそなえました。
その時手伝ってくれたカンボジア人のブナ君が、
塗料を窓のガラスにはみ出して塗ったので、
後で落とすのに苦労しました。
半年広告を出しましたが結局マンションは売れませんでした。
ケンに貸すために買ったマンションでしたが、
希望の値段で売れなかったので、
面倒ですがまた貸す事にしました。
2年以上住まれると居住権ができてしまうと言われたので、
外国企業など転勤で自分から出て行く法人に貸すつもりでした。
ひとたび住んでしまうと法律で店子が保護されているので、
何年たっても家賃の値上げが難しいとのことでした。
最初から標準の家賃を付けてもまだ安心とは言えず、
裁判に持ち込まれるとも脅かされました。
すると、公営の安い住宅との比較になって、
実際の賃貸の価格から
異常に低い価格設定にされてしまうと言うのです。
もちろんそんなことを言うのは
売買専門の近所の調子のよい不動産屋で、
彼はその売買の手数料で優雅な生活しているのです。
裁判がどうのこうのというのは嫌ですが、
新聞の貸しアパートの欄を見ると
実際は結構強気の値段設定なのでした。
そこで大きくて目に付いた
レオナルド・ダ・ビンチという賃貸不動産会社に電話をしました。
待ち合わせてマンションにやって来たのは、
チャールズ・ブロンソンに良く似ている人相の悪い男でした。
“大丈夫かいな”と思いましたが
前の調子の良い若い男は良くなかったので、
見かけで判断するのも悪いかと思いました。
賃貸の管理会社の人で
「このマンションなら、そちらの希望よりも
ずっと高い家賃で貸せる」
と言います。
そこで頼むと、実際すぐに良い値段で借り手が見つかりました。
「前払い3ヶ月の家賃は双方のために当社が管理しておく。
月々の家賃もいったん自分の会社を通して支払ってもらう」
と、言われましたが、
家賃は私の通帳に振り込んでもらうことしました。
ところが4ヶ月目になっても家賃が入ってこないので、
なかなか繋がらない電話を通して
やっとこちら送金してもらいました。
手数料は最初の3ヶ月の家賃から引かれます。
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