第37回
こんなんで大丈夫かな?
言いたい事は始めからキチンと言うチュンは、
どうしても月に45万円はいると言います。
母と甥をカンボジアから呼び寄せたいのですが、
それだけ無いと許可されないらしいのです。
「土曜日も働くし残業もするからそれだけはどうしても欲しい」
と、ねばりました。
その額は店員の標準より三、四割多いのです。
私の方もそれだけの給料を支払うと、
チュンの給料よりも少ない額しか残りませんでした。
店は今年になってからも今ひとつ売り上げに伸びがありません。
それでもTさんが人物を保障してくれて
「よく働いて病欠も一度もなかった」と言う事なので
働いてもらうことにしました。
カンボジアの事情と二年間失業というのにも同情してしまいます。
初めの三ヶ月はデンマークでは通例のテスト期間になります。
幸い長期失業者を雇うと十ヶ月は地方自治体から援助がありました。
仕事を増やすために写真撮影のスタジオも作りました。
やや大げさですがスタジオは証明書写真にも使えます。
仕事を始めてみると
チュンはまったく機械を扱ったことがないらしくて、
機械の調子が少しでも悪いとオロオロします。
慌ててパニックになるタイプでもありました。
仕事も遅いし、果たしてどうなることやら、と心配でした。
ところがたいへんゆっくりではありましたが、
チュンは確実に上達していきました。
二年後にはスピードでは私と変わらない位になったのです。
まったく機械という物をいじったことがなかったので、
初めのうちは覚えるのに時間が掛かっただけでした。
とにかく産業というものが根こそぎ破壊されたので
機械を手にしたことの無い少年時代だったのです。
「子供は何をして遊ぶの?」と聞くと
チュンは質問の意味が解らないのです。
何回か質問の意味を説明すると
「子供は遊ばない」という答えが返ってきました。
では何をするのかというと「働く」という答えが返ってきました。
甚だしいカルチュアのギャップです。
チュンは子供の頃はカンボジアでは牛の番をしたそうです。
薬局で働いたこともあるそうです。
資格というものはその頃のカンボジアには無かったそうで、
薬局でも歯医者でも無資格で営業していたそうです。
医者も歯医者もインテリだから、
学校を出たそういう人は
真っ先にポルポトの軍隊に殺されてしまったのだそうです。
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