前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第28回
窮すれど乱れず

私が週2回行っていたバトミントン・クラブの
「クリスマス食事会」のことです。

その時は給仕さんの学校の練習を兼ねた食事会で、
安くて美味しい料理を若い学生達がサービスしてくれました。
床屋だって歯医者だって
学生の練習に付き合ってあげれば
時間は掛かるけど安くあがるのです。
隣に座った陽気なお爺さんのマックスは
楽しそうに次々と料理を平らげていきます。
バトミントン歴は長いらしくて
華麗なテクニックといつも絶やさない笑顔がトレード・マークです。
私:
「どの料理もおいしいけれど
その甘い血のソーセージだけは僕はどうも好きになれないんだよね」
マックス:
「いやこれはね、このジャムを添えて食べると美味しいんだよ。
パクパク」
マックス:
「今度は一緒に組んでラースとウルリックを2人でやっつけよう」

ラースとウルリックはクラブのメンバーで多少生意気なのですが
最強と目されるペアです。
クラブではダブルスが主体でした。
マックスは明るいデンマーク人の中でもとりわけ明るくて、
一発スマッシュを決めては笑い、
失敗しては又笑うという具合でした。
他の人達、特にラースなんかは何がなんでも勝ちたくて
強い人と組みたがるし、負けるとカッカとくるんです。
それはそれでとても面白いのですが。

食べ物もアルコールも充分にまわったところで
マックスが周りの人に言いました。
「さて、ヒロも赦してくれるから、
ここでもう一杯コニャックをごちそうになろう」
これは「カラマーゾフの兄弟」で父親が息子の名をあげて
「ドミトリイ(だったかな?)も赦してくれるから、
コニャックをもう一杯」
と同じ台詞だったのを思い出しました。
そういう言い方がどこにもあるのかな?
話すことが途切れた時に私が言いました。
「マックスはいつも楽しそうだね」
するとマックスは少しだけ静かな声になって、
でも微笑みを浮かべたまま答えました。
「俺はね、もうじき癌で死ぬんだよ。来週はペアで一度やろうな」
衝撃が背中を走りぬけました。


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2004年8月25日(水)

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