第17回
風変わりなお客
お客の中で目立った人達はまだたくさんいました。
フランスらしい街角のたくさんの写真に、
四角形の絵を切り抜いて
貼り付けた写真を撮っているおじいさんもいました。
おじいさんは数ヶ月もそんな写真ばかりを持ってきていました。
変な趣味でした。
それがパリの大きな四角の新しい凱旋門風オブジェだと知ったのは
大分後でした。
あのごく普通な控えめな、
でも少し変人かマニアぽいおじいさんはデザイナーだったのです。
つらい少女時代を書いて成功した
作家のヴィタ・アナセンの顔は本で知っていました。
本の中では政権を握る社会民主党の議員が
ボーイフレンドの母がだらしなくて少女が苦労する話でした。
ところが当人も実際に
社会民主党の議員のボーイフレンドがいました。
色々な体験を重ねてお話を創っているようでした。
彼女はコニカの1600アーサーで
自分の娘らしい幼い子を撮っていました。
ご存知かもしれませんが、
その頃の1600アーサーは粒子が粗くて質が悪いのです。
それをまた露出不足にして益々ひどい写真にしていました。
そんなフィルムで何本も何本も同じような写真を持ってくるので、
何かを創っているのが解りました。
デンマークは人口が少ないので作家で生活していくのは大変です。
その上に本代は日本の三倍ぐらいするので
買う人も少ないのです。
その代わりに図書館が発達していて
図書館に買い上げになると少しは良い率の対価が支払われます。
それでも英語やフランス語、日本語と比べても
大変なハンディキャップです。
デンマーク語を使う人口は500万人しかいないのです。
本の写真から装丁まで自分でやれば楽しいし、
その分の仕事の収入もあることになります。
一度、私が写真を渡すときに
「この焼き増しは一時間仕上げだから高いのです」
と言うと、意外だったらしく
ふっくらとした頬をプッと又ふくらませました。
今思えば、常連なのだから
たまには安くしてあげれば良かったです。
私はそういう具合に頭が廻らない方で、
色々な面で商売には向いていないんです。
一年の後、天使の格好をした可愛い少女が
頬っぺたを口紅でグルグルと「おてもやん塗り」にした表紙の新刊が
本屋に並んでいました。
粒子が粗い写真はなかなか効果的でした。
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