温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第46回
平野から温泉が消える?

平成以降になって、平野部や都市部に急増した
日帰り温泉施設の源泉が、涸渇(こかつ)を始めています。

昔の温泉はすべて自然湧出だったので、
降った雨が地中で温められ、
循環を繰り返している限り涸れることはありませんでした。
では、なぜ、ここにきて日帰り温泉施設の温泉は
涸渇を始めたのでしょうか?

これは温泉法の「温泉の定義」と無関係ではありません。
“湧出口の温度が25度以上あるか、
特定成分を規定量以上含むもの”は、すべて温泉となります。
つまり、特定成分が含まれていなくても
25度以上あれば温泉と認められる
ということです。

仮に地表の平均温度を15度とします。
地下は100メートル掘るごとに水温が2〜3度上昇しますから、
単純に計算して、1000メートル以上掘れば
40度以上の地下水をくみ上げることができます。

しかも平野部でくみ上げられている温泉は
“化石海水”といわれる
大昔に陸に閉じ込められた海水が溜まったものですから、
当然、湯量に限りがあります。
その湯量の限界が、約20年だといわれています。

「ふるさと創生資金」がきっかけとなって
全国で行われた温泉掘削ブームですから、
そろそろ涸渇年齢を迎える施設が出てきても、
おかしくはない話です。

しかし、日帰り温泉施設の閉鎖は、
必ずしも温泉の涸渇だけとは限りません。

今年になって、群馬県太田市の公共温泉入浴施設では、
こんな事態が発生しました。
温泉をくみ上げるパイプが、地下1070メートル付近で
スケールの付着により目詰まりを起こし、
湯量が激減してしまいました。
「スケール」とは、温泉の成分が酸化して、
不溶性の析出物となり堆積したものです。

太田市は1,000万円の費用をかけて除去工事を行いましたが、
スケールは取り除けたものの湯量は戻りませんでした。
「原因は温泉の涸渇ではない。さらに深い所に堆積物があるため」
と発表しましたが、
たとえ、それを除去しても湯量が回復する確証がないことを理由に、
工事の続行を断念しました。

何千メートルと地下を掘削して、温泉を涸渇させてしまう人間。
また、温泉を掘り当てることはできても、
揚湯パイプの目詰まりを起こしたら、なす術もない人間。

そんな人間の愚行に、
温泉の神様が怒りださなければ良いのですが……。


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2012年5月5日(土)

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