計画的な詐欺に
私は以後、月いっぺんは必ず会計報告をするように申し渡して東京へ戻ったが、六月末にまた台北に行くと、本人が飛行場にやってきて、
「池に入れた百万匹の鰻が盗難にあって、十七万匹しか残っていない。内部で共謀して盗まなければできないことだから、いま調べているところだ。この責任は全部自分が負う」と言った。
「警察に知らせたか」ときくと、
「いや先生に相談した上できめたいと思って、まだ何も知らせていない」
とノンキなことを言っている。
誰が考えても、池の中の鰻を八十万匹も盗むのは容易なことでないし、盗まれたのなら顔色変えて警察にとびこむはずである。本人は私にとっちめられて誓約書を書き、池の所有権を私のところへ移し、残った鰻は十月末まで養って処分した上、不足分は弁償すると言ったが、登記の書類は途中までつくっておっぽり出し、私が台北へ行くと高血圧を理由に病院に駈け込み、私が夜の十時に病院に行ってみたら、どこかに遊びに行ってもぬけの殻であった。
さすがの私も、計画的な詐欺にかかったことに気づき、検察局に訴えて捕まえてもらった。私はこの機会に五町歩の土地の名義を書き換えてもらい、さらに裁判をやって地上物もすべて所有権を確保したが、時価にして三千万円くらいの価値しかなかった。
裁判の結果は七か月の懲役になったが、蒋介石が死去して大赦があったので、半分の三か月半ですんだ。中国人は他人の物を盗んでも、牢屋で刑期を終えるとそれで償いはすんだという考え方を持っており、本人は「相手が悪かった。邱永漢でなければこんなことにならないですんだのに」とうそぶいていたそうである。
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