損して覚えたチェーン店経営のコツ
実際にやってみないとわからない
コインオペのクリーニング屋をやってみて、勉強になったことがたくさんある。
たとえば、私は筆を持つ仕事をやってきたので、仕事がなくなれば別だが、ずっと間断なく忙しく、クリーニング屋は家内に任せるよりほかなかった。
家内は香港でも、ちょっとした家の生まれだったし、人に頭を下げるような仕事をしたことがなかったので、洗濯屋の店先に立って、「いらっしゃいませ」とか、「ありがとうございました」とか、最初の頃は、簡単な言葉がどうしても口に出て来なかった。それが店をしめる頃には、百円か、二百円のお客にも大きな声で、「ありがとうございました」と自然に言えるようになっていた。
うちには子供が三人いて、小学校から中学校に通う年頃になっていたから、母親が手を離せないことはなかったが、家内は家にお手伝いさんがいても夕食のおかずは必ず自分でつくったので、六時に店を引き揚げてからあわてて家へ戻り、それからまた台所の仕事をした。彼女にしてみれば、かつて想像もしなかったような重労働だったが、「疲れた」とか、「もうやりたくない」とか、愚痴は一切こぼさず、最後までやり通した。にもかかわらず、最終的に店を他人に譲る気を起したのは、何といってもクリーニング屋が零細企業に属し、しかも過当競争で人件費の上昇するなかでもロクに値上げができず、しかもシーズンオフになると商売が激減して年間を通じて大した利益の期待できる業種ではないと見切りをつけたからであった。
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