二十代に荒稼ぎした金は残らない
「旱天(かんてん)の慈雨」
半年間がアッという間に過ぎてしまった。もう戻って来ないのではないかと半ばあきらめていた蔡が、再びヤミ船に乗って神戸から香港へ姿を現わした。
もともと私の全財産は僅か千ドルで、そのうち五百ドルを投資していたので、手元には五百ドルしか残っていなかったが、六か月も売り食いをすると、もう財布の底が見えるほどになっていた。夜もロクに眠れず、さんざん心細い思いをしたあとだけに、蔡の到来は私を狂喜させた。
蔡は素手で貨物船から下りてきた。というのは、船員として乗船していて、歯ブラシとタオル以外は何ひとつ持って入れなかったからでもあるが、もう一つには香港から日本へ運んで採算に乗るものはいくらでもあるが、物資欠乏の日本から香港へ持ってくるものは何もなかったからでもあった。私は蔡を連れて彼の泊まるホテルまで案内をした。
チェックインをすませて、ボーイに案内されて部屋に入った。扉をしめるなり、蔡は上着を脱ぎ、ズボンのベルトをゆるめはじめた。何事かと思って見ていると、蔡のおなかには腹巻きが巻きつけてあった。腹巻きをはずすと、その中から金塊が何本も出てきた。次にズボンの裏に縫いつけてある糸をほどくと、その下からグリーン・バック(米ドル)を出してきた。さらに、前ポケットの中から小さな包みを取り出したが、その中にはダイヤが四、五粒キラキラ輝いていた。
「これが僕の全財産だ」
と蔡は言った。
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