「まさか」と私は笑い出した。
「いくら亭主のやることが気に入らなくとも、自分の亭主を警察に突き出すような女房はいないでしょう」
「ところが、うちの女房に限って安心はできないんですよ。僕はふだん、セビロもネクタイもつけずに、この通りこんなカッコで出勤するでしょう。僕がキチンと洋服を着ただけで、今日は何の用があるのです、と根掘り葉掘りきくんです。何しろうちの女房はネズミのようにすばしこい奴で、ちょっとカタリと音がしただけで、もうきき耳を立てているんですから」
「一体、どうしてそんな女と結婚したのですか?」
と、まだ独身だった私は理解に苦しむような表情をした。
「友達が結婚したいというから、仲人をするつもりで女を紹介したんだよ。そうしたら、友達がいやだというから、僕が代わりに嫁にもらってしまったんだ。もう一年早く二・二八事件が起っていたら、僕は結婚など絶対にしなかっただろうな」
荘は、まるで、はったりのない男だったし、生活も質素そのものだった。何回か密議を重ねた末に結局、私は香港に使いに行くことを承知した。私はまず請願書の作成に必要な統計数字や資料などを集め、それをもとにして日本語で草稿を書いた。二人で草山温泉にある台湾銀行の寮に泊まりがけで出かけ、そこで数字をピックアップして自分にだけわかる方法で手帖に書き込み、もとの草稿は焼き捨ててしまった。
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