第256回
「三十年近く、薬局をやってきましたが」
もとはと言えば、私たちの身体は
たった一つの受精卵が
分裂と増殖を積み重ねた結果、
得られたものです。
受精卵は、分裂を幾度もくり返しながら
様々な臓器や組織を作るために分化し、
臓器や組織が完成すると増殖を停止します。
しかし、遺伝子に異常が生じると、
細胞は無秩序に分裂や増殖をくり返し
自分勝手に際限なく
増え続けてしまうことがあります。
こうして変異した細胞をガン細胞といい、
その塊りをガンまたは悪性腫瘍と呼びます。
現在、細胞の遺伝子を傷つける要因として、
活性酸素の問題が
いろいろと大きく取りあげられていますが、
活性酸素の生成量が最も多いのは
エネルギー代謝が活発な心臓の筋肉です。
前回、心臓は細胞分裂の観点から
非常にガンになりにくいと書きましたが、
活性酸素の点から言えば
一番ガンが出来やすいのは心臓なのです。
それがガンに滅多にならないのは、
活性酸素の障害に対しても
心臓は相当な抵抗力を持っているのでしょう。
現在、ガンの発生を抑える物質の研究は
世界中で盛んに行われていますが、
心臓からガンの特効薬を開発するという話は
今までどこでも聞いたことがありません。
しかし、三十年近く漢方薬局をやってきた
私の経験では、
心臓の働きをよくする漢方薬を使うと、
ガンの患者さんの容態があまり
進行しないような気がしてならないのですが。
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