服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第997回
さあ、春の足もとです

春になってまっ先にやってみたいことは何ですか。
私の場合は、思いきり明るい色調の
スポーツ・シューズを履いてみたい。
もう重くて、黒い、地味な靴を履くことに
疲れてしまいました。
ゲンズブールの真似をするわけではありませんが、
白いダンス・シューズでも
履いてみたい気持になっています。
たぶん冬の間、ワーク・ブーツを履くことが
多かった反動でしょう。

ピンクのスニーカーなんてのも
良いかも知れません。
あるいは白いスニーカーに好きな色で
彩色するのもひとつの方法でしょう。
そうです、春は足もとからやって来るのです。

とりあえずダーク・グレイのスーツに
白いシューズを組合わせてみる。
さて、ここで問題はソックス。
ダーク・スーツに白、
もしくはカラフルなシューズとくれば、
たぶん合わせる靴下に困ってしまうでしょう。
おしゃれの原則からすれば、
パンツに揃えるか、またはシューズに揃えるか、
ということになります。

でも、私としてはここにもうひとつ
明るい色を加えたいのです。
グレイのパンツに白いシューズ、
そしてピンクやイエロー、
あるいは鮮やかなグリーンのソックス。
「屋上屋を重ねる」という言葉がありますが、
まさにそれです。
それももしも可能ならウールのソックス。
ウールであればどんなに大胆な色でも
しっくりとなじんでくれるからです。
さらには明るい色柄によるチェックの靴下も
ぜひ履いてみたい。

たぶん人は
「下品な、悪趣味な足もと」と思うでしょう。
でも、下品とは何でしょうか。
少し下品な組合わせをして、
それがたちまち「下品」になってしまうのは、
私自身が下品であるからなのです。
けれども私に少しでも
上品なところが残っていれば、
たぶんそれは新しい、
大胆なおしゃれになるのです。
それはちょうどリトマス試験紙に似ています。
表現をかえるなら、
やや下品なことをおしゃれに見せるには、
自分がうんと上品でなければならないのです。


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