服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第971回
はんてん、丹前、チャイニーズ

ふだん愛用の部屋着はどんなものですか。
今、私が愛用しているのは―ちょっと説明が難しい。
正しい名前を知らないからです。
私は勝手に「チャイニーズ」と呼んでいるのですが。
要するに、立襟で、ボタン代りに
支那結びの付いた、中国の上着です。
黒の地に大きな円型の模様がししゅうで入っています。
そして内側がキルティングになっているのです。
いや「綿入れ」と言ったほうが分りやすいでしょう。

たしかずっと前に中華街で買ったものですが、
さすがに外出着にしようとは思わない。
で、古いスェーターの上に重ねてみると、
たいへん具合がいいのです。
軽くて、温かい。
重ね着が苦にならないのです。
ソファやベッドの上に
投げ出しておいてもシワにならない。
そんなわけで最近の私の部屋着はもっぱら
この「チャイニーズ」君です。

ところで「綿入れ」は日本にもあります。
まあ形としては羽織に似ていて、
2枚の布の間に綿を入れてあるから、「綿入れ」。
寒い時に暖をとるための
生活の工夫から生まれたものでしょう。
その時代にはボタンひとつで
温風の出るヒーターはなかったのですから。

「綿入れ」とは実は総称なのだそうで、
むかしは身分によって
大きく2種類があったのだそうです。
「小袖(こそで)」と「布子(ぬのこ)」。
この場合の小袖は、絹地の綿入れ。
表も裏も絹で、その間に綿を入れる。
一方、布子のほうは
表も裏も木綿で仕立てたものを言ったのだそうです。

中に綿を入れた着物という意味では、
他に「どてら」や「丹前」
「かいまき」などがあります。
どてらと丹前は丈長の、ほぼ同じものですが、
かいまきは丈が短く綿もやや薄いものです。

これらのさまざまな綿入れは
たしかに温かく、便利なものです。
でも時代の力が
やや奇異なものにしているのも事実。
着こなし術からいえば、たいそう難しい。
ここは丹田(たんでん)に力を入れ、
背筋を伸ばして着ましょう。
またそれが身体を温かくする
ひとつの方法でもあるのですが。


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