服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第954回
帽子を脱がないための被り方

ボウラーを知っていますか。
“ボウラー・ハット”とも言いますが、
要するに「山高帽子」のこと。
ほら、あのチャップリンが被っているやつ、
といえばすぐにお解りでしょう。
長い間、私はボウラーが被れなかった。
もともと帽子はどんな帽子でも大好きなのですが、
ボウラーだけはダメでした。
いくらなんでもおおげさな、
という思い込みがあったのです。
ところがある時、
ジーンズにワーク・シャツの上に被ってみた。
妙といえば妙ですが、
これですっかり平気になった。
それまでの抵抗がなくなった。

ワーク・シャツとジーンズは
私がもっとも慣れ親しんでいる服装で、
その安心感が抵抗を薄めてくれたのでしょう。
帽子に限らず、なにか着こなしの上で
大冒険しようという時には、
それ以外の服装を
いつもの身体になじんだものにするのが、
コツだと思います。

けれどもボウラーにも具合の悪いことはあるもので、
人に会ったり、部屋のなかでは脱がなければならない。
そして脱いだ時、
なかなかうまい置場が見つからないのです。
その点、女の人の帽子はいいですね。
脱がなくていいのですから。

でも、男だって
脱がなくても良い帽子がひとつあります。
それは頭にぴったりと被ったベレーです。
いや、ベレーの本当の被り方は、
頭にぴったりとさせるものですから、
これは言葉の矛盾というべきでしょう。
私がつい、こんな間違いをしてしまうのも、
ベレーを頭にただ乗せているだけの人が
少なくないからです。

傾け方をはじめとするフォルムのつくり方は
それぞれ自由で良いのですが、
とにかくしっかり頭をベレーのなかに
入れることが大切なのです。
こんなふうに頭と一体化させたベレーなら、
人に会おうが部屋に入ろうが、脱がなくても良い。
ただし和室で正座するような場合は別でしょうが。

さて、はじめてベレーを被るにも
多少の勇気が必要。
でもまわりをなじみのある服装で固めておけば、
きっと大丈夫ですよ。


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