服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第916回
ネクタイと商魂

ブランド物のネクタイは何本持っていますか。―
ネクタイの話になると、
どうしても本数になってしまうようです。
1950年代のはじめ、
英国のシドニー・バーネイが
『服装と男性』を書いて、
ひとつの基準を掲げています。
それによれば会社経営者は48本、
経験ゆたかなビジネスマンは24本、
おしゃれな独身者は38本が目安とのことです。
むろんこれはすべて現役のネクタイでしょうから、
かなり多い本数と言えるのではないでしょうか。

かつての船舶王、オナシスは
毎年48本のネクタイを
特別注文で作らせていたそうですから、
48本はひとつの上限であるのかも知れませんね。

さて、デザイナーズ・ブランドのネクタイについて。
アルマーニ、ビル・ブラス、
カルダン、ディオール・・・。
ABC順に思い浮べようとしても、
いくつものデザイナー名が挙げられます。
今、ブランド物ネクタイの
花ざかりと言って良いでしょう。

そもそもオートクチュール・デザイナーが
紳士のネクタイを作るようになったのは、
1920年代のことです。
おそらくはパリの、
ジャン・パトゥ(1888〜1936年)が
最初だろうと考えられています。
1925年のことです。
これはかなり成功したようで、
シャツ専門店であったシャルヴェでも
ネクタイを並べるようになりました。
ついでながらエルメスで
タイを売るようになったのは、
1948年頃のことです。

ふつう高級婦人服店は、
奥様なり恋人が選んで、男性が支払いをする。
ところが女性が服を選ぶ間、
どうも男は手持ちぶさたで困る。
たとえばネクタイでも選ぶふりをしていれば
間(ま)が持てるのではないか。―
たぶん、ジャン・パトゥはそう考えたのでしょう。
結果は大成功。
紳士用のネクタイや小物も並んでいるために、
大いに男性が店に入りやすくなったのです。
一本のブランド物ネクタイの奥にも、
ビジネスのアイディアが隠されているのです。


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