服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第906回
シルク・ニット・タイの万能性

今回は、日ごろご愛読下さっている読者の
shigeo kakudou 様から
「ニットタイとビジネススーツの組み合わせ」について
質問メールをいただきましたので、
そのご回答を掲載させていただきます。


■ shigeo kakudou 様にいただいたメール

件名:ニットタイとビジネススーツの組み合わせ

出石先生へ。

御無沙汰致しております。
先生のコラムを毎日楽しく拝見させて頂いております。
まだまだ暑い日も続いてはおりますが、
そろそろ秋雨前線も活発化して、
秋の装いが気になり始める時節がやって参りました。
そこで今回も新たな質問がございます。

ブティックの店内には秋物の新作の商品が並び、
それを見て歩くのはとても楽しいものです。
特に紳士服のコーナーでは、
秋を意識した色合いのネクタイが特に目を引きます。
中でもニットタイのカラーバリエーションが
最近特に増えている様に思います。

もともとニットタイは編み込んで作られている分、
立体的で深い味わいをもっておりますが、
カジュアルシーンでの活用が本来の使い方だと思い、
私はジャケットもしくはセーター等ニット類とだけ合わせて
休日用のネクタイとして今まで使って参りました。
しかし昨今のニットタイは実に色合いが豊富で、
仕事中でも使ってみたいと思わせるものがたくさんあり、
ビジネススーツにニットタイを合わせてみたいという気持ちが
最近特に高まってきました。
クールビズのごとくカジュアル化が社会的に進む中、
それも良いんじゃないかと思うようになって来たのであります。

そこで先生に質問ですが、
ビジネススーツにニットタイ。
この組み合わせはルール違反になるのでしょうか?


■出石さんからのA(答え)

ご丁寧にもお便りを下さり、
ありがとうございます。
また日頃からお目通し下さっていることにも
深く感謝申上げます。

ニット・タイの歴史は
たいへん古いのだそうです。
たとえば1908年(明治41年)、
ドイツに「アスコット」という名の、
シルク・ニット・タイ専門店が店を開いています。
今のようなフォア・イン・ハンド型のネクタイが
一般化するのは、
20世紀はじめのことですから、
ネクタイ誕生期にすでにニット・タイはあったわけです。

ただしここで注目すべきは、
シルク・ニット・タイであったことです。
ニット・タイがその素材によって
大別できることは言うまでもないでしょう。
夏にふさわしいものとしては、
コットン・ニット・タイや
リネン・ニット・タイがあります。
一方、秋冬用としては
ウール・ニット・タイがあります。
けれども使われている素材は、
季節とだけ関係があるのではなく、
それに合わせるシャツや上着とも
密接に関連しているのです。
極端にいえば、シルク・ニットが
ややドレッシーな印象であるのに対して、
コットン・ニットやウール・ニットは
スポーティーな服装にこそふさわしい。
たとえばコオデュロイやトゥイードの上着、
あるいはウールのスポーツ・シャツには、
ウール・ニット・タイが最適でしょう。

さて、ここで話を
シルク・ニット・タイに限定するなら、
もちろんビジネス・ウェアに
組合わせることが出来ます。
もっともフォーマル・ウェアには不向きです。
ことに黒無地のシルク・ニット・タイなら、
ビジネス・ウェアを超えて
たいていの着こなしにマッチするものです。
「もし1本だけと限定されるなら、
 黒無地のシルク・ニット・タイを選ぶ」
という洒落者は少なくありません。

もちろん
ごく一般的なビジネス・ウェアであれば、
黒無地と限らず、
好みの色を自由に選べるでしょう。
時に紺無地や白や赤の水玉を刺繍した柄物もあります。
流行に関係なく結べ、
いざとなれば丸めてポケットや鞄に入れておける
シルク・ニット・タイは、
もっと活用したいものです。


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