| 第893回幸福を招く菊ワイン
 「登高」という言葉を知っていますか。登高(とうこう)。
 読んで字のごとく、高い所に上るという意味です。
 むかし中国に費長房(ひちょうぼう)という先生がいた。長房はある時、弟子の桓景(かんけい)に予言を与えた。
 来たる9月9日はお前の家に災難が来るので、
 山に登り、菊酒を飲んで、難を避けよ、と言った。―
 これが登高の起源だと伝えられています。
 もともと中国では9は陽数であり、めでたいこととされます。
 9月9日は陽数が重なるので、
 重陽(ちょうよう)と言います。
 そのために重陽の節供と呼ばれるのです。
 別名を菊花宴、菊酣宴(きくかんえん)とも。
 ところでひとつ言い忘れたことがあります。赤い袋。
 長房は桓景に、中にしゅゆの実を入れた赤い袋を持て、
 とも指示しているのです。
 茱萸(しゅゆ)は中国原産の、みかん科の植物で、
 その赤い実は漢方薬の一種とされます。
 さて、登高を現代的に解釈するなら、アウト・ドアのすすめでしょう。
 家のなかにこもって、
 仕事や勉強ばかりしていたのでは気が滅入る。
 時には外に出て、空気の良い所で、
 のびのびと食事を愉しむが良い、
 という教えなのでしょう。
 そしてその時に飲むのが菊花(きくか)酒。
 中国での菊花酒とはぶどう酒と菊花で作ったのだそうです。
 これを飲むと鎮静作用があり、
 目がよく見えるようになる、
 と考えられています。
 色は黄金色と言いますから、
 おそらく白ワインであったのでしょう。
 菊の花が食用として売られているのは、ご存じの通り。
 これをもとめて白ワインの上に
 散らしてみるのはどうでしょうか。
 即席の、今様の菊花酒というわけです。
 もちろん赤ワインの上に浮べてみるもの
 一興でありましょう。
 ただし「登高」でありますから、戸外に出て菊花酒を飲むべきです。
 9月9日、もし晴れたなら、
 庭かベランダか公園か、
 ぜひ私はワインに菊の花を浮べて、
 邪を払いたいと思います。
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