| 第891回さあ月見のはじまりです
 月をゆっくりと眺めたことがありますか。秋は名月の季節。
 8月15日(陰暦)が「十五夜」で、
 9月13日(陰暦)を「十三夜」と
 むかしから言ったものです。
 十三夜が「後(のち)の月見」で、
 これだけを観るのを
 「片(かた)月見」と呼んだのだそうです。
 <月見する座に美しき顔もなし>という芭蕉の俳句があります。
 でも、これを誤解してはいけません。
 最初、芭蕉は
 <名月や児(ちご)立ち並ぶ堂の縁>と詠んだ。
 寺の美少年と名月を対比させた。
 次に
 <名月や海に向かへば七小町>とした。
 これにも納得しなくて、ついに
 <月見する座に美しき顔もなし>
 にたどりついた。
 つまりその位美しい月だなあ、という句なのです。
 美少年や美女よりも名月のほうが美しいかどうかは、
 この際、話を横に置いておきましょう。
 どの位、月が美しいのか、
 一度とっくりと鑑賞してみようではありませんか。
 どうせなら1人で眺めるのもなんだから、
 気の合う仲間4、5人と誘い合って、
 ベランダか屋上か庭あたりで宴を張りましょう。
 これを観月会と昔の人は言ったのです。
 もう少し優雅に呼ぶなら「月の宴」。
 ゲストのことは「月の客」。
 しかしまあ、そうはいっても結局のところ私などは
 名月をサカナに酒を飲んだり、
 佳肴に手を伸ばしたりするほうが忙しいのですが。
 中国の風習を手本として
 日本でも広く定着したのが平安時代というから、古い。
 古いからというだけでなく、
 せっかくの「月の宴」を廃れさせてしまうのは
 惜しいではありませんか。
 中世には中世の、21世紀には21世紀の月見のやり方がきっとあるはずです。
 月の宴の予定が決ったなら、
 まずは案内状を作りましょう。
 電子メールもよろしいが、
 地球の進歩に月が驚くといけないので、
 ここはひとつ葉書あたりをおすすめしたい。―
 そうなると月の宴の前に、
 はやくも万年筆にしようか筆にしようかと、
 雅(みや)びの心を
 思い出したりするものでございますよ。
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