第865回
漱石とオーデコロン
ヘリオトロープを知っていますか。
もともとは花の名前ですね。
またの名を
「キダチルリソウ」ともいうのだそうです。
別に「コウスイソウ」とも呼んで、
香りの良い花らしい。
実際にこの花から香水をつくることもあるとのこと。
そして明治の頃には
「ヘリオトロープ」という銘柄の香水があった。
夏目漱石の小説『三四郎』に出てくるのは、
たぶんご存じでしょう。
三四郎が唐物屋でシャツを選んでいるところに
美弥子とよし子が偶然やって来る。
よし子が三四郎のシャツを選び、
三四郎が美弥子の香水を選ぶ。
その銘柄が、「ヘリオトロープ」。
ついでながら唐物屋は今の洋品店のこと。
余談の余談。
明治語の「舶来屋」は今の洋服屋、
「勧工場(かんこうば)」は百貨店のことです。
それはさておき、他人事ながら
三四郎がまったく迷わずに香水を決めたのは、正しい。
実際の話、素人が香水を選ぶのは、
至難の技であるからです。
なんとか匂いの良し悪しを区別できるのは3種類位で、
それから後は本当は鼻がごまかされてしまう。
漱石のヘリオトロープではありませんが、
私は天然植物系の、軽い、
オーデコロンが良いと思います。
諺を借りるなら、
「香りは人のためならず」で、
自分自身の気分転換に
とても役立ってくれるからです。
たとえばなにかイヤなことがあったなら、
手をきれいに洗う。
洗った後で、両手の手首の裏に2、3滴、
オーデコロンをつけてみて下さい。
我ながら佳い香りが感じられて、
たちまち気分爽快になるはずです。
漱石の「漱」は口をすすぐ、という意味です。
食事の後に軽く水で口をすすぐ。
この時、コップの水のなかに
2、3滴のオーデコロンをたらしてみる。
これまた気分の良くなるオマジナイです。
オーデコロンは他人に対するおしゃれというよりも、
もっと身近かな、ふだんの生活のなかでの、
香りのビタミン剤なのです。
そんなふうにオーデコロンを上手に使う人は、
きっといつも上機嫌でいられるはずです。
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