第785回
美しい人には笑いが似合う
「山笑う」という表現を知っていますか。
春の山の様子を「笑う」とすることがあるのです。
たとえば「故郷(ふるさと)やどちらを見ても山笑う」
という子規の句があります。
これは『臥遊録』という
古書から出た言葉なのだそうです。
「春山淡治にして笑うがごとく」。
淡治(たんや)は「優雅」といった意味でしょうか。
春の山はあでやかで、笑っているように見える。
もちろんほかの季節の形容もそれぞれあって、
夏ならば「山滴(やましたた)る」
秋なら「山粧(やまよそ)う」
冬なら「山眠(やまねむ)る」
なかなかうまいことを言うものですね。
なんだか実際に
そんな感じがしてくるではありませんか。
さて、春になると山が笑う。
山が笑うのなら人はもっと笑うべきでしょう。
笑う門には福来たる、というではありませんか。
微笑(ほほえ)みから
大笑(たいしょう)に至るまでの、
さまざまな笑い方あります。
高笑いというのもあれば、
哄笑(こうしょう)というのもあります。
ちょっと変ったところでは、微苦笑。
これは久米正雄の造語なのだそうです。
さて、どんなスタイルで笑いましょうか。
でも、そう簡単には笑えないよ、
と言う人もいるかも知れません。
しかし
「人はおかしいから笑うのではなく、
笑うからおかしくなるのだ」
という説もあります。
私はこの意見を信じるほうです。
さあ、最初は少しだけ笑ってみましょう。
そうそう、もう少し笑ってみましょう。
で、ほんとうにおかしくなってきたら、
もっと大きく笑いましょう。
いつも笑っている人のところにこそ、
幸福と健康が訪れるはずです。
美しい笑顔と言いますね。
笑顔はたいていの場合、
その人のもっとも美しい表情なのです。
もしそうであるなら、
人が笑う姿も美しいのではないでしょうか。
いや、美しくあるべきです。
笑うは良し、美しく笑うのはもっと良し。
全体のスタイルとして美しい笑い方。
微笑ならむ美笑というべきでしょうか。
「あの美しい笑い方を見ていると、こちらまで心が和むね」
と一度で良いから
言われてみたいものではありませんか。
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