服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第777回
なぜコートには襟がついているのか?

コートの着こなしについての自信がありますか。
実はコートの着こなしはたいへん難しい。
けれども一度それをマスターすると、
誰がみても惚れ惚れとする
美しいコート姿になるものです。

まず第一にコートのシルエットを
自分なりに創ることが大切です。
どこに量感を出し、どこを細く絞るのか。
第二に、下に着ている服装をすべて隠す。
つまりコートを脱いだ時、
はじめてスーツなどがあらわれるように
工夫するのです。

この基本中の基本に
少しだけ注意するだけでも、
コート姿は大きく変化するはずです。
コートの着こなしは奥が深い。
少なくともスーツよりも
はるかに難しいのではないでしょうか。

たとえば本当に寒いときには、
コートの襟はすべて立てて着るべきです。
シングル前であろうとダブル前であろうと、
上襟も下襟も立てて、すっぽりと首元を包む。
そしてマフラーをその襟の上から巻く。
これはもっとも温かいコートの着こなしです。
なぜなら身体で温められた暖気は、
上へ上へと逃げてゆく。
いわば熱の出口である首元を
しっかり閉じるわけだから、
温かいのも当然でしょう。

襟を立てて、マフラーを巻く。
首元に新しい量感が生まれるわけですから、
まさにシルエットを創ることにもなります。
もちろん内側の服装もまったく見えない。
しかも温かい。
一度やってみる価値はありそうです。

寒かろうと寒くなかろうと、
コートの襟を立てるのは、
ひとつの演出だと覚えておいて下さい。
マフラーはなくてもかまいません。
ただ軽く襟を立ててみる。
一般的に襟を立てるしぐさは、
よりいっそう自分の身を守ろうとする姿勢で、
ここに裏感が生まれることがあります。
裏感とは少し大げさな言い方かもしれませんね。
あえて「男の色気」と言ってみましょうか。
時と場合によっては、
上着に襟を立ててみるのもひとつの方法です。
「襟を立てた着こなしが似合う」
と思い込むことは、
コートを美しく着るための第一歩なのです。


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