服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第776回
ゆったりゆっくり優雅の基本

飛行機での旅はお好きなほうですか。
私はやや高所恐怖症の気があるのですが、
飛行機の高さになると、
なぜか気になりません。
いわゆる飛行機嫌いではありません。
なに、大きなバスに乗っていると思えばいいのですから。

飛行機に乗って
まず最初に私がすることは、
上着を脱ぐことです。
シワにならないよう軽く畳んで、
棚に入れておきます。
たとえ1時間の旅でもそうします。
というのは、上着を脱いでおいたほうが楽だし寛げて、
上着もシワにならなくてもすむというものです。

さて、この場合の上着の畳み方ですが、
左右の両方をひとつに重ねるように合わせ、
つまり半ば裏返すようにします。
こうすれば簡単に細長く、半分に畳めるでしょう。
これをさらにやや四角に近くなるように
二つ折りにする。
これは素速く、シワにならず、
しかも表側が汚れることのない畳み方です。
もしも上着を脱いだために寒いようなら、
機内の毛布を貸してもらえば良いでしょう。

さて、飛行機が着陸したら、どうするか。
私はいつも、ゆっくりと座ったままでいます。
いちばん最後に降りるつもりになれば良いのです。
そのほうがムダな労力を使うことなく、
よりリラックスできるからです。

もちろん入口近くの優先席に座っている場合には、
順序に従って先に降りればよろしい。
けれども一般席なら、着陸したからといって、
すぐに出られるわけではありません。
扉が開き、乗客が歩きはじめてから、
はじめて降りられるわけです。
そうであるならゆっくり本でも読んでいるほうが、
ずっとおしゃれなことだと思います。
第一、人を押しやるように先に出たところで、
荷物が出てくるのを立って待つだけのことです。

最後に降りるのは、
ちょっとしたVIP気分で、
どうかするとターンテーブル上に
自分の鞄だけが待ってくれたりするものです。
ゆっくりゆっくり、ゆったりゆったり。
ゆっくりの「ゆ」は優雅の「ゆ」です。
飛行機だけでなく、
なにごとも優雅にふるまうには、
まずゆっくりの心がけを持つことです。


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