服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第724回
鏡の見方研究

1日に何回、自分の姿を鏡に写して見ますか。
3回、5回、7回・・・。
私だってそう多いほうではないでしょう。
でも、本当は多ければ多いほど良いと思います。
女の美しさは、鏡を見る回数に比例する。
と私は考えています。
美しいから鏡を見るのか、
鏡を見るから美しくなるのか、
その辺りのことはよく分りませんが。
それはともかく男のおしゃれも
これと似たところがあります。
鏡を見る回数の多い男ほど、おしゃれである、と。

では、どんなふうに鏡を見れば良いのか。
顔だけ、上半身だけを見れば
それで良いわけではありません。
頭のテッペンからツマ先までの
全身が写る鏡が理想的です。
上着の襟がちゃんと折れているか、
シャツにシミは付いていないか、
ネクタイは曲っていないか。
もちろんそういう部分的なことも大切でしょう。
しかし本当によく眺めるべきは、
全体のバランスなのです。
量感のバランスといっても良いでしょう。
たとえば上半身の量感と
下半身の量感とのバランス。
これは単に釣りあいというだけでなく、
上半身はゆったり、下半身はほっそり、
といった具合に
コントラストという場合もあるでしょう。

全体の量感からはじまって、
次第に細部へと入ってゆくわけです。
パンツとシューズのバランス、
上着の袖口とシャツのカフス、
シャツの襟とタイの結び目・・・。
このように毎日、
何回か全体のバランス感覚を点検することで、
ゆっくりと量感の美しさということが分ってくるのです。
実はおしゃれにとっては、色やデザインより前に、
この「量感」こそが重要なのです。
量感はシルエットに優先し、
シルエットはデザインに優先するからです。

さて、服装全体を眺めるということになると、
鏡(姿見)は玄関近くに一面あったほうが良い、
ということになります。
靴を履いた状態、帽子を被った状態で
点検することができるからです。
それもごくわずか後傾するように、
斜めになっていたほうが
スタイルが良く見えるという説があります。
これも一種の自惚鏡
ということになるのかも知れませんね。


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