服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第698回
大人の楽しみ、グレン・プレイド

グレン・チェックの服を着たことがありますか。
これはグループ・チェックの一種です。
いくつもの筋が複雑に交差した格子柄で、
古典柄のひとつでもあります。
事実、異なるふたつの柄を組み合わせようとしたところから、
グレン・チェックがはじまった、
とも言われています。
では、それはどこではじまったのか。
スコットランドはネス湖近くの、アーカートで。
もう少し正確にはアーカート峡谷で。
そのために、
グレン・アーカート・チェックの名前があるのです。

ということは本来タータン柄のひとつであったわけで、
正しくは“グレン・アーカート・プレイド”と
呼ぶべきでしょう。
タータン柄は伝統的に
“プレイド”plaidの名前がありますから。

余談はさておき、
久々にグレン・プレイドを着てみたい、
という気持になっています。
それもあえてスポーツ・ジャケットとして着てみたい。
ダーク・グレイのパンツを合わせて、
なかには黒のタートルネック・スェーターを着てみたい。
これほど大人の男にこそ似合う柄は
珍らしいのではないでしょうか。

グレン・プレイドの替上着を買う時には、
ポケットをじっくりと眺めて下さい。
とくにフラップ・ポケットのあたり。
この部分で、柄と柄との流れが
ぴったり正確に揃っているか、どうか。
もし、きっかり揃っているようなら、
それは丁寧に仕立てられた上着だと判断して良いでしょう。

これはなにもグレン・プレイドに限りませんが、
大きな格子柄を使って、
ひとつの服に仕上げるのはかなり面倒なことなのです。
ごく単純に考えて、
無地物よりもはるかに多くの生地量が必要。
しかも人間の眼と手で、
柄と柄がうまくひとつになるよう
調整するわけですから、手間です。
ついでながらこの作業のことを
「柄合わせ」と言います。

けれども、きちんと柄合わせのなされた
グレン・プレイドの上着を着るのは、
ちょっとした優越感があります。
気持ちが良い。
これぞ大人の服という感じがするのです。


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